タラップを上がり、鉄の甲板に立つ。
重いドラの音が、胸の奥の空洞を震わせた。船がゆっくりと岸壁を離れる。
雨のカーテン越しに、防波堤に佇む小さな影が揺れていた。彼女の姿が、一歩、また一歩と遠ざかる。
伸ばされたままのその手は、もはや雨粒を掴むことしかできない。俺は胸ポケットから、火のつかない煙草を取...
ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。
タラップを上がり、鉄の甲板に立つ。
重いドラの音が、胸の奥の空洞を震わせた。船がゆっくりと岸壁を離れる。
雨のカーテン越しに、防波堤に佇む小さな影が揺れていた。彼女の姿が、一歩、また一歩と遠ざかる。
伸ばされたままのその手は、もはや雨粒を掴むことしかできない。俺は胸ポケットから、火のつかない煙草を取...
「行かないで」
掠れた声が、土砂降りの舗音に混じった。彼女の指が、雨に濡れた俺のコートに縋りつく。
その白く細い枝のような指先が、
かつて愛した温もりを思い出させようと、必死に抵抗していた。「……もう、俺の居場所はここにはない」振り返れば、崩れ落ちてしまいそうになる。
だ...
波止場の隅、灯りの落ちかけた酒場。
曇った硝子窓の向こうに、あの横顔があった。歳月は、彼女の瞳からあどけなさを奪い、
代わりに、消せない煙草の煙のような影を落としている。扉を開ける。
潮の香りと、安っぽい香水の匂いが混じり合う。「……生きてたのね」
「死に損なっただけだ」...
錆びついた錨(いかり)が、泥濘(ぬかるみ)に沈んでいる。
十年ぶりのこの街は、安物のバーボンのように喉を焼く。埠頭のクレーンは、巨大な骸骨のように立ち尽くし、
降りしきる雨は、消し忘れた過去のしみを洗おうとしていた。トレンチコートの襟を立て、
マッチを擦る。
湿った海風が、一瞬の火花を冷たく嘲笑った...
錆びついたクレーンが、重い空を吊り上げている。
数年ぶりのこの街は、安物のウイスキーと同じ、ひどく喉に障る味がした。埠頭を叩く雨音は、誰かの言い訳のように執拗で、
撥ね上げた水飛沫が、磨き忘れた靴を汚していく。
俺を待っていたのは、歓迎の言葉じゃない。
コンクリートに染み込んだ、消えない過去の記憶だ...