窓をひらけば あかるい五月の風が
銀色のさざなみを 部屋へと運んでくる
僕はしずかに 一冊の古い本を閉じて
まだ見ぬ明日の 夢のつづきを反芻する藍色の湖面に 映る雲の白さが
あまりに儚く あえかに揺れているので
僕はひととき 自分の名前さえ忘れて
透明な空気のなかに 溶けてしまいたいと思うしあわせは...
窓をひらけば あかるい五月の風が
銀色のさざなみを 部屋へと運んでくる
僕はしずかに 一冊の古い本を閉じて
まだ見ぬ明日の 夢のつづきを反芻する藍色の湖面に 映る雲の白さが
あまりに儚く あえかに揺れているので
僕はひととき 自分の名前さえ忘れて
透明な空気のなかに 溶けてしまいたいと思うしあわせは...
一
窓をひらけば あかるい風の帯が
見知らぬ季節の つぶやきを運んでくる
僕はただ 藍色の湖面をみつめて
遠い日の約束のように 椅子に深く沈んでいるさざなみは 銀色の鱗(うろこ)をきらめかせ
古い手紙の 行間を濡らしてゆくようだ
昨日の僕が ここに置き忘れた言葉を
いまは名もなき 小鳥たちがついばん...
しづかな林の 木もれ日のなか
白い鈴が 一列に並んでゐた
それは風が吹くたび かすかに揺れて
誰にも聞こえぬ 幸福(しあはせ)の歌をうたふ五月の朝は あまりに透きとほり
私のこころは 硝子の器のやうに
あふれる光を こぼしてばかりいる
昨日までの哀しみを どこへ隠したのだらう青い葉の影に ひそんでゐ...
風のひかる うららかな昼
牧場のすみに 小さき碧(あお)のひと群れ
あかるい空のしたで ひっそりと
それは誰も知らぬ ちいさな夢の形をしていた私は手折ることをためらふ
その青が あまりに淡く あまりに脆く
時を止めてしまふやうに思はれたから
ちぎれた雲の ひとかけらみたいに貴方は言つた 「忘れないで...
Ⅰ窓のそとは うすもも色のゆうぐれ
ひくく ひくく 風が鳴ってゐる
ぼくは 古い手帳を閉じて
あをざめた星が ともるのを待っているしづかな部屋の かげのなかで
眠り姫は けふもわらはない
その睫毛(まつげ)に ひかりがふれても
その唇(くちびる)に あしたの予感がゆれても姫はただ 失はれたものの名前...