背後に立った気配だけで、酒がまずくなった。
紫煙と、安物の香水の混じった匂い。
忘れたはずの過去が、磨り減った靴音を立てて近づいてくる。「相変わらず、趣味の悪い場所に居るな」聞き覚えのある声に、俺はカードを伏せた。
振り返らなくてもわかる。
かつて同じ泥水をすすり、俺の背中を預けていた男だ。
そして...
背後に立った気配だけで、酒がまずくなった。
紫煙と、安物の香水の混じった匂い。
忘れたはずの過去が、磨り減った靴音を立てて近づいてくる。「相変わらず、趣味の悪い場所に居るな」聞き覚えのある声に、俺はカードを伏せた。
振り返らなくてもわかる。
かつて同じ泥水をすすり、俺の背中を預けていた男だ。
そして...
街外れの、ネオンが半分死にかけた地下室。
ここは、人生を投げ出すには丁度いい
掃き溜めのようなカジノだ。回るルーレットの音は
死神が爪を研ぐ音に似ている。
「運命」なんて言葉を信じる奴から順に
身ぐるみ剥がされて、裏口から放り出される場所。俺は、回らないスロットの横で
琥珀色の液体を 転がしている。...
水平線の端が 濁った白に染まり始める
夜という名の 唯一の味方が
俺を見捨てて 逃げ出していく時間だ結局 奇跡なんてものは
この波止場には 流れ着かなかった
期待していなかったと言えば 嘘になるが
期待しなくて正解だったと 胸を張るポケットの奥で 握りしめていた拳を解く
指先には 過去の傷の疼きと
...
左胸の少し下に
皮膚が引きつれたような 痕がある
それは 弾丸が掠めた跡でも
愛に溺れた証でもないただの 愚かさの焼け跡だかつて俺は 信じていた
「言葉」には重みがあり
「約束」には命が宿ると
そんな御伽噺を 本気で信じて
守らなくていい盾を 構え続けていた雨の夜 差し出された傘の下に
毒が仕込まれ...
氷が溶ける音を
時計の秒針だと思い込んで
もう三時間が過ぎた正しさが 眩しすぎるこの街で
俺はわざと 影の濃い路地を選ぶ
真っ直ぐ歩けば 早く着くのは知っているが
最短距離で手に入る幸福なんて
安物のライターより 信用ならない「どうして そんなに 捻くれているの」
かつての女が 煙草の煙越しに聞いた...