波止場のダイナーの角、
スピーカーから漏れるのはニーナの掠れた独白。
ピアノの鍵盤が、夜の帳(とばり)を一枚ずつ剥いでいく。街は潮風に洗われ、
湿ったアスファルトが街灯を鈍く反射する。
俺の火をつけたタバコの煙は、
行き場を失くしたカモメのように宙を彷徨った。「運命なんてものは、安酒の氷みたいなもん...
波止場のダイナーの角、
スピーカーから漏れるのはニーナの掠れた独白。
ピアノの鍵盤が、夜の帳(とばり)を一枚ずつ剥いでいく。街は潮風に洗われ、
湿ったアスファルトが街灯を鈍く反射する。
俺の火をつけたタバコの煙は、
行き場を失くしたカモメのように宙を彷徨った。「運命なんてものは、安酒の氷みたいなもん...
冷気だけが、この部屋の唯一の秩序だ
白布に覆われた「沈黙」を前に
俺の言葉は、安っぽい鉛玉ほどの価値もない
生きる意味も、死ぬ理由も、他人が語ればすべて嘘になる「もっとこうしていれば」などと、誰が言えるのか
その指先が冷たくなるまで、俺たちは孤独な戦士だったはずだ
正解を持たない俺が、死者にかけられ...
滑り落ちた吸い殻が、濡れたアスファルトに溶けていく
泥にまみれたこの靴で、誰の背中を指差せようか
「生き方」を説く言葉は、とっくにドブ川に流した
俺の喉にあるのは、苦い酒と、飲み込んだ後悔だけだ隣で誰かが道を間違え、奈落へ落ちようとしても
差し出す手は、血と紫煙の匂いが染み付いている
「正しくあれ」...
雨上がりの熱気が、濡れた駐車場を焦がし
春陽炎が、愛車のボンネットの上で不敵に踊っている
三日三晩、まともな眠りなど忘れていた
瞼の裏が熱く、視界の端で現実がぐにゃりと歪む「仕事」は片付いた
派手なカタルシスも、誰からの喝采もない
ただ、守るべき連中の――
明日からの食い扶持と、平穏な屋根を死守した...
終わってみれば
手元に残ったのは、湿った領収書と
ひどく汚れた靴の先だけだった雨上がりの熱気が、濡れた路面を燻り
春陽炎がアスファルトを毒々しく這い回る
視界の端で、守り抜いたはずの「事実」が
不格好に歪んで見えたあいつを裏切り、こいつを黙らせ
指先には、まだ泥の混じった不快な感触が張り付いている
...