硝子の川、あるいは彼女の涙
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/08/23 13:44:09
夏の夜気は、湿った銃弾のように重い。
錆びついたボラード(係留柱)に腰をかけ、
俺は冷めきった煙草に火をつけた。
錆びついたボラード(係留柱)に腰をかけ、
俺は冷めきった煙草に火をつけた。
揺れる波頭が、月光を鋭く撥ね返している。
まるで、あいつが最後に浮かべた、
あの酷く冷ややかな微笑の刃のように。
まるで、あいつが最後に浮かべた、
あの酷く冷ややかな微笑の刃のように。
「今さら、戻りたいなんて言うなよ」
潮騒の隙間から、古いハスキーな歌声が聴こえる。
夜のラジオが流す、ジュリー・ロンドン。
泣いてみせろと、あいつは歌う。
川のように、溢れるほどの涙を流してみせろと。
夜のラジオが流す、ジュリー・ロンドン。
泣いてみせろと、あいつは歌う。
川のように、溢れるほどの涙を流してみせろと。
裏切りは、この街じゃ日常茶飯事の挨拶だ。
だが、あいつの嘘だけは、
俺の胸の奥に、消えない弾痕を残した。
だが、あいつの嘘だけは、
俺の胸の奥に、消えない弾痕を残した。
波止場に打ち寄せる波は、黒いインクのようだ。
過去をすべて塗りつぶすための、夜の帳。
あいつが流すはずの涙で、
この海が満ちていく。
過去をすべて塗りつぶすための、夜の帳。
あいつが流すはずの涙で、
この海が満ちていく。
「泣きなよ、ハニー。俺がそうしたように」
紫煙が月明かりに溶けて消える。
俺は吸い殻を、夜の海へと弾いた。
小さな水音が、静寂に吸い込まれていく。
感傷なんてものは、この波止場の底に、
錨と一緒に沈めてきたはずだった。
俺は吸い殻を、夜の海へと弾いた。
小さな水音が、静寂に吸い込まれていく。
感傷なんてものは、この波止場の底に、
錨と一緒に沈めてきたはずだった。



























