Nicotto Town ニコッとタウン

スマホ版あります♪



安ホテルの孤独

ギィ、と軋む重いドアを押し開け、俺は安ホテルの狭い一室に身体を滑り込ませた。
壁の薄い時計が、無遠慮に午前2時の秒針を刻んでいる。
濡れたトレンチコートをハンガーに掛けた瞬間、この部屋のすべてが、俺の孤独を歓迎するように沈黙した。


剥げかけた壁紙と、安物の石鹸の匂い。
これが今夜、俺が手に入れた世界のすべてだ。
窓の外では、相変わらず容赦のない雨が、
トタンの屋根を激しく叩き続けている。
ベッドの端に腰を下ろし、
湿った煙草に火をつけた。
揺れる小さな炎だけが、
この狭い部屋に生きる影を、壁に大きく映し出す。
彼女が去ったあとの、指先の冷たさが消えない。
シャーリー・ホーンのあの重いスローテンポが、
まだ耳の奥で、幻聴のように鳴り響いている。
Love is funny, or it's sad...
悲しいという言葉すら、この部屋では重すぎる贅沢だ。
天井のシミを眺めながら、紫煙を吐き出す。
男の孤独なんてものは、
ポケットの底に溜まった、ただの灰のようなもの。
払えば落ちるが、決して消えることはない。
シーツに身を沈め、目を閉じる。
雨音の隙間に、一瞬だけ、あのドアのベルの音が聞こえた気がした。
だが、それはただの風の悪戯だ。
俺はただ、暗闇の中で眠りを待つ。
この街のどこかで、同じ雨を見上げているであろう、彼女の幻影を振り切るために。_

#日記広場:日記




Copyright © 2026 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.