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河もにうつる夏の花火4



だれも知らない草の葉の
そのかそけき囁きのひびく処で
ぼくらはそっと息をひそめてゐた
夕闇のなかにがそよぎだすのを
遠い街のざわめきをよそに
ちひさなが夜の隅に迷ひこむ
きみの横顔はかすかに匂ひ
ぼくの心は千々に震へてゐた
そのとき 静かな水のおもてに
ひとつのひかりが零(こぼ)れ落ちた
それは音のない遠い花火の
かなしい追憶のはじまりのやうに

あかいひかりが あをいひかりが
水面(みなも)を滑るやうにひろがっては
またたくまに闇へと還ってゆく
流れるの影のやうに はかなく
きみは何も言はずにただ見つめてゐた
ひらかれては消えゆくその花の影を
ぼくの手のひらを吹き抜ける
いつか失はれるものたちの冷たさをおぼえて
さやさやと鳴る夜の草むらのなか
ぼくらはここで何を待ってゐるのだらう
過ぎ去った日の あの一瞬のきらめきを

もうすべては夜の底へと沈み
暗い河の水だけが ただ流れてゆく
ぼくらの秘密の場所には
冷たいと 草の匂いだけがのこされて
いつかぼくがこの場所を忘れても
あのちぎれたのゆくえを忘れても
夏の夜の あの短いまたたきは
だれに告げることもなく そこにありつづける
さようなら ぼくのやさしい面影よ
にちぎれて消えた あのあざやかな幻よ

空にひらいたひとつの輪が
静かな河もにもうひとつの輪をむかへる
二重の円(まどか)えがいたあの夏のまたたきを
ぼくは今も 窓辺の風のなかに夢みてゐる

#日記広場:小説/詩




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