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詩編:真夜中のチェスボード

冷たい潮風が、トレンチコートの襟を叩く。
街灯の下、自分の影だけが妙に長く伸びていた。
誰もいない真夜中の埠頭。
耳の奥で鳴り響くのは、さっきまでバーで流れていたエタ・ジェイムズの声だ。
地を這うような、重くかすれたブルース。
彼女の歌は、この街の泥水をすべて吸い上げて、
それでも気高く咲く花のように響く。
世界は歪んだチェスボードだ。
誰もが生き残るために、汚い手を使って駒を動かす。
だが、私には私のルールがある。

月光がアスファルトを白く照らし出す。
それはまるで、隠し事の通じない冷徹な裁判官のようだ。
懐の古い銀時計を取り出し、ネジを巻く。
刻む音だけが、この夜で唯一信用できる言葉だった。
エタの残響が、波の音に消えていく。
タフな夜が、またひとつ明けていく。
俺は帽子を目深にかぶり直し、
ただ自分の足跡だけを信じて、歩き出した。

「夜が深くなると、街は余計な飾りを脱ぎ捨てる。
コンクリートの冷たさと、容赦のない月光。残るのはそれだけだ。」


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