Nicotto Town ニコッとタウン

スマホ版あります♪



名もなき花束を

ガタつく車輪が、心臓の鼓動と重なる
冷え切った座席の横、そこには
あいつが好きだった、安物のカサブランカが揺れている
「俺に関わるな」
突き放したあの日、あいつが見せた無理な笑顔
その裏側にあった孤独を、俺はジタンの煙の匂いで塗り潰した
守るために離れたはずが、失うことでしか守れなかった
窓の外、夜明けの光が雪原を刺す
ポケットの中で握りしめた、渡せなかった指輪
冷たい銀の感触が、俺の罪を静かに責め立てる
ただの臆病者の仮面だった
「……待たせたな」
独り言は、列車の風にかき消された
最期の停車場、ホームに立つ人影はない
けれど、朝日に透ける空気の中に
あいつの髪の香りが、微かに、確かに混じっていた
俺は膝をつき、声を殺して泣いた
鉄の男が、ただ一人の男に戻った瞬間
溢れた涙は、凍りついたレールを溶かし
どこまでも続く、光の道を作っていく
あばよ、愛しい人
この列車の終点は、俺が新しく、お前を愛し始める場所だ

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