Nicotto Town ニコッとタウン

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銀翼の弔辞


夜間飛行の客室、わずかな読書灯の下で。
お客様がそっと取り出されたのは、
四隅の擦り切れた、小さな一枚の写真でございますね。
そこに写る方の微笑みは、もう二度と動くことはなく
あなたの指先に触れる温度も、遠い記憶の彼方。
配達されることのなかった、その古い手紙の隙間に
ただ独り、閉じ込められたままの面影です。
「守りたかった」という誓いは、
この高度一万メートルの闇の中では、あまりに無力で。
強がりの裏側に隠した、震える肩を
夜の静寂だけが、静かに見つめております。
お客様。
男が流すことのなかった涙は、
グラスの中の氷よりも冷たく、胸の奥を抉るものでしょう。
誰にも見せることのない、その「痛み」こそが
あなたがその方を愛した、唯一の証明でございます。
エンジンの低い唸りは、まるで鎮魂歌(レクイエム)。
かつて二人で歩くはずだった未来を
今夜、この鋼鉄の翼が、暗雲の向こうへと運び去ります。
夜明けが来れば、また仮面を被らねばなりません。
非情な世界を生き抜く、タフな旅人として。
ですから、朝日が雲海を染めるその瞬間までは、
その写真の微笑みに、どうか心ゆくまで溺れてください。
不達の手紙と、色褪せた写真。
重すぎる過去を抱えた、夜間飛行のお客様。
着陸の衝撃が、あなたの悲しみを少しでも散らしてくれますよう。

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