Nicotto Town ニコッとタウン

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硝子の涙壺

路地裏のバー、氷の溶ける音だけが
唯一のまともな会話だった
カウンターの隅、琥珀色の液体の隣に
場違いな小さな壺が、街の灯を拒んでいる
「それはなんですか?」
バーテンダーの問いに、俺は火を点けた
安物の煙草の煙が、記憶の輪郭をぼかす
「涙壺(ラクリマトリ)さ。古代の連中が、悲しみを貯めたっていう」
俺の仕事は、誰かの代わりに引導を渡すことだ
だが、落ちた涙まで掃除する術は持ち合わせていない
割れた窓ガラス、アスファルトに散った命
それらをすべて飲み込んで、この小さな容器は黙り込む
バーボンを一口。喉を焼く熱さが心地いい
男の涙は酒に混ぜて飲み干すものだと
誰かが格好をつけた台詞を吐いていたが
溢れそうなこの感情を、飲み干す器グラスが足りない
夜霧が窓を叩く
かつて愛した女の、最後の震える指先が
今もこの壺の底で、冷たく沈んでいるような気がして
俺は最後の一滴を流し込み、席を立つ
「代金はそこに置いておく」
涙壺は、俺の指紋と後悔だけを封じ込めたまま
誰もいないカウンターの上で、冷ややかに光っていた_

#日記広場:人生




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