硝子の涙壺
- カテゴリ:人生
- 2026/03/05 14:49:17
路地裏のバー、氷の溶ける音だけが
唯一のまともな会話だった
カウンターの隅、琥珀色の液体の隣に
場違いな小さな壺が、街の灯を拒んでいる
唯一のまともな会話だった
カウンターの隅、琥珀色の液体の隣に
場違いな小さな壺が、街の灯を拒んでいる
「それはなんですか?」
バーテンダーの問いに、俺は火を点けた
安物の煙草の煙が、記憶の輪郭をぼかす
「涙壺(ラクリマトリ)さ。古代の連中が、悲しみを貯めたっていう」
バーテンダーの問いに、俺は火を点けた
安物の煙草の煙が、記憶の輪郭をぼかす
「涙壺(ラクリマトリ)さ。古代の連中が、悲しみを貯めたっていう」
俺の仕事は、誰かの代わりに引導を渡すことだ
だが、落ちた涙まで掃除する術は持ち合わせていない
割れた窓ガラス、アスファルトに散った命
それらをすべて飲み込んで、この小さな容器は黙り込む
割れた窓ガラス、アスファルトに散った命
それらをすべて飲み込んで、この小さな容器は黙り込む
バーボンを一口。喉を焼く熱さが心地いい
男の涙は酒に混ぜて飲み干すものだと
誰かが格好をつけた台詞を吐いていたが
溢れそうなこの感情を、飲み干す器グラスが足りない
男の涙は酒に混ぜて飲み干すものだと
誰かが格好をつけた台詞を吐いていたが
溢れそうなこの感情を、飲み干す器グラスが足りない
夜霧が窓を叩く
かつて愛した女の、最後の震える指先が
今もこの壺の底で、冷たく沈んでいるような気がして
かつて愛した女の、最後の震える指先が
今もこの壺の底で、冷たく沈んでいるような気がして
俺は最後の一滴を流し込み、席を立つ
「代金はそこに置いておく」
涙壺は、俺の指紋と後悔だけを封じ込めたまま
誰もいないカウンターの上で、冷ややかに光っていた_
「代金はそこに置いておく」
涙壺は、俺の指紋と後悔だけを封じ込めたまま
誰もいないカウンターの上で、冷ややかに光っていた_

























