Nicotto Town


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毒の壺

投稿者:Litsu☆

僕は毒の壺を見つけた。
父の書斎にあたる部屋の本棚の隙間から
何やら鈍く光る濃褐色の陶器の壺が奥にあった。
そろりそろりと引き出してみると象牙で出来た広口の蓋に和紙で
封がされており、「毒なり、飲むべからず。」と墨で書かれていた。
父は大学府での仕事が忙しく、二週に一度食事を共にするくらいで
ほぼ僕とは、会話らしい会話もなくここ数年過ごしてきた。
専門は薬理ではない‥。趣味で何かを調合するような奇人でもない。
そもそも本棚になぜ置いてあるのだ?謎は疑問となり脳内を埋めた。
明日はその、二週に一度の食事の日だ。それとなく問うてみようか?

「お父さん、この間書斎の掃除してたら、妙な壺をみつけたんだけど‥
 毒って書いてある壺。あれは何なの?」

元々父との会話は苦手なのだ。自分自身も社交的な性格ではない。
いろいろ考えあぐねたが、単刀直入に聞き質すより妙案も無かった。

「ああ、あれを見つけたのか。あれは毒だよ、猛毒だ。だから
 飲んではいけないし、蓋を開けちゃだめだからな。」

意外なことに父はすんなりと白状‥いや返答した。拍子抜けするくらい
ミステリアスでもホラーでもサスペンスでもない応えだった。でも
当然すぐさま沸き起こるであろう疑問が口をついて出た。

「なんで、あんなところにそんな毒の壺があるの?」

父は顔を上げ僕の方を少しのぞき込むと、またうつむいて言った。

「昔な、私もそれと同じ質問を私の父にしたよ。どうして毒の壺なんて
 本棚に置いてあるのか?ってな‥。」

「?」

「そのとき親父が言ったよ。もし?おまえ自身が自分を何としても
 許せない!と思うような事があったら、自分の始末は自分でつけよ。
 その時はこれを飲め、ってな‥。」

「ええ?それじゃあ‥自殺?」

「まあ、戒めだよ。いざとなったら、最後に自分でけりを付けることが出来る。
 そういうのがあると、却って度胸がつくもんだ。考えだって判断だって慎重になる。
 最後の最後まで粘れっていう‥まあ、戒めみたいなもんだ。」

「‥‥。」

「私もそうやって教えられ、アレを譲り受けたんだよ。私が引退したらお前にやる。
 当家で代々そうやって引き継がれてきたものだ。」

「それって、今まで飲んで死んだ人いないの?」

「有難いことにな。それだけ皆頑張って生きたんだということだ。」

「じゃあ、本当に毒かどうかなんて‥」

「試してみるか?」(笑)

もちろん僕は試さなかった。どんなに年月を経たか分からない得体の知れないものを口にするほど
愚かではなかったからだ。それも何の自慢にもならない。
たとえそれが毒で無かったとしても、何か問題があるというのか?
毒と思って人生航路の「戒め」にするのなら、別に悪いことじゃない。
仮に猛毒だったとしても、それはそれで緊張感のある人生だ。

その後、折に触れ父にどの辺りの先祖からの伝承か?いろいろ聞いてみた。
遡ると、寺方の坊主をしていたご先祖が修行中、壺の毒を飲んで死のうとしたことがあったらしい。
その時は、なぜか坊主は一命をとりとめた。これは「人を導いて生きよ」との如来様の仰せである。
として、生涯仏修行の道に励み、後の高僧となったらしいことが伝えられていた。








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カテゴリ
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設立日
2024年02月18日

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