Nicotto Town


ストーリーテーラーの集まる小さなカフェ

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マッチを売る少女

投稿者:Litsu☆

雪の降るある日、一人の少女がマッチを売っていました。

「マッチはいかが?だれかマッチを買ってください。
 だれか、マッチは要りませんか?」

クリスマスも過ぎ年の終わりも近づいて、人々も街も慌ただしく気ぜわしく
そんな中、マッチを売り歩くこの少女に目を向ける者など一人として居りませんでした。
お洋服のすそは破れ、首巻きは汚れてボロになり、頭巾は使い古したマットのようでした。

「売れないと、おとうさんに叱られるのです。だれか、マッチは要りませんか?」

少女の声は足早に通り過ぎる人々の流れの中で、大渦に撒かれたボトルインクみたいに
飲み込まれ、かき混ぜられ、すぐに消えていきました。

それは昨夜のことでした。少女の父親はいつものようにお酒を飲んでは少女に厳しく八つ当たり
していました。
「おいこら、おまえ!ちょっとは酒代稼いで来やがれってんだ。このウスノロ!」(ガチャン!)
父親は空のビンを壁に投げつけました。
「そうだ、近所に世話好きの口利きババアがいただろ。あそこ行って聞いてこい!
 仕事の一つや二つ回してくれるはずだ。そら、行って来い!」
言われるまま少女は『世話好きの口利きおばあさん』のところを訪ねました。

「おやまあ、たいへんだったねぇ~、そうだ、今ちょうどいい仕事があるのよ。
 あんたにピッタリの仕事だ。良かったねえ、あんたツイテるよ、ほんと。」

おばあさんの教えてくれたお仕事が、このマッチの売り子でした。

「…こんなの、売れるのかしら?」

少女はため息をつきながら、かごの中のマッチ箱を一つ取り出して見つめました。

「今どき、喫煙率だって下がってるし、吸う人だってライターくらい持ってるわ。
 コンロだって電磁式だし、最近はオール電化のIHよ? キャンプだって
 チャッカマン使ってるじゃない。こんな箱マッチなんてだれが…」

「ねえ、おじょうちゃん。」

少女はびっくりして頭を上げました。そこには大柄のちょっと強面の男の人が
くわえ煙草で立っていました。

「マッチを一個、くれないか。」
「あ…あ、ハイ、ありがとうございます!…では、こちらを。」

手にしたマッチを差し出そうとすると、男の人はさえぎって

「いやいや、オレはその黄色い箱のやつがいい。それをくれ。」

見ると、かごの中のマッチ箱には模様に色が着いてカラフルな物もありました。

「あ、どうぞ!」

少女は黄色い箱マッチを差し出しました。

「ありがとうよ、じゃ代金な。」
「はい!ありがとうございました♪」(へえ~、こんなのでも売れるんだ。)

少女は感心しました。

「そういえば、おばあさん言ってたっけ?」

『世話好きの口利きおばあさん』に商品のマッチを受け取りに行ったとき、もしお客で色指定して
くる人がいたら、その人には好みの色のをちゃんと渡すように、って言われていたのでした。
「それ以外の人には黒色の箱を売りなさいって言ってたわね。」
そう言って何気なく色んな箱を触ってると、

「?」「あれ、色着いた箱、なんか重さがちがう。」

気になった少女は、傷がつかないようにゆっくりと箱を開けてみました。

「え?」

そこには十数本のマッチに交じって、黒い物体が入っていました。

「なに?これ。…メモリーカード?」

(ちょッ…これって普通の箱マッチじゃない…こんな中に入れて……まさか?
 フォーマット済み?…じゃない…ていうことはデータ?…ウソ…ヤバいんじゃあ…)

「ねえ、おじょうちゃん…」
「ひぃーッ!」

背後から急に声を掛けられて、少女は驚いて思わず二歩後ずさってしまいました。
今度はキチンとした身なりの男性でした。

「…マッチを一個くれないかな。その赤い箱のやつ。」
「はいッ…こ、こ、これですよね?」
「ああ、それだよ。じゃお代と、コレを、おばあさんに渡してあげて。」
「え?」
「渡せばわかるから、じゃ頼んだよ。」

そう言って、男性は津波のような人ごみの奥へ去っていきました。


「そうかい、そうかい、いや、よくやってくれたねぇ。…ハイお駄賃。」
「おばあさんひどいよ~、あれ、ただの箱マッチじゃないでしょ。ビックリしたんだから」
「アハハ、そりゃ悪かったねえ、ごめんよ。」
「それ…渡せって言われたから…なんか?メモ書きみたいだけど?」
「ああ、これね?暗号通貨の解凍コードだよ。最近じゃネットバンクも厳しくてねぇ。」
「へえ~…」

少女はそう答えると、本当のコードの書かれたメモをポケットの中で握りしめました。






管理人
ケニー
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カテゴリ
自作小説
メンバー数
16人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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