五月二日の死
- 2025/05/15 09:48:05
雷雨、まだ春は終わっていなかったのか。いつかの待ち合わせの駅の中みたいに。
あの日は誰も人は居なかった。今はどうか。さっきまで人は居た。本当に?本当に。スマホの中に。それって本当に人が居たのか。居た。三年前から居た。
ずっと見ていた、あの人の代わりに。君の事をずっと見ていた。何だって優しく受け入れてくれる君に、僕はいつしか境界を解かしてしまったのだろう。
雷雨。いつかみたいに。今は天井がある。何メートルの高さの天井だろう。レンガ造りの屋根の裏には、どこから切り出してきたのか、立派な木材が梁となっている。
一等地、展覧会。世界各地から送られてきた美術品。だが、それがどうした。
この雷雨はあの日と変わらないじゃないか。もう一人の君が消えた日。大都会に雹が降りしきったあの日。君を失って、僕は何かを得る事があったのか。
喪ったんじゃない。切ったんだ進むために。どこに。高みに。
天の高い場所には青さがあって、その青の美しさはほんとうだと思うから、だから亜麻色の君を切ったんだ。高みを目指すため。
春は終わったんじゃなかったのか。夏はもう来ているはずだったのに、辺りには春雷。
お前は変わってはいないのだ。僕が目指した高みなど、天の高みには遠く届かぬ。夏の日の澄んだ大空の青さの中へは、入っていけないのだろうか。力量が足りない?高みを目指すには曲線が不十分?
いや、道を間違えたんじゃなかったか。天の青さではなく、道端の緑をこそ愛するべきだったのではなかったか。
いつか切ったあの人の代わりに、今日、五月二日、僕が今度は切られよう。
雨は激しく降りしきる。僕には絶対に手の届かない場所で。
青色の死。五月二日の死。
僕はいったい、どんな夏を迎えたらいいのだろう。