Nicotto Town


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信仰

投稿者:Litsu☆

イザベラは小さい頃から信仰深い愛らしい少女だった。
意味が分からずとも、何につけ神様に祈る仕草をした。
両親はそれを見て、何度も微笑ましく思っていたものだった。
誰に教えられるわけでもないのに、よく教会に足を運んだ。

9歳の春、早朝の祭壇で彼女は天使に啓示を受けた。

「神の祝福がもたらされます。あなたは神の愛で人々を癒しなさい。」

『奇跡』だった。
その日から、少女は村の人々の病を治す力を発揮し始めた。
病める者、苦痛に耐える者、怪我に苛まれる者、様々な人々が彼女の奇跡に
よって災いから解放され、涙を流し口々に感謝の言葉を贈った。

「神様、今日も私にお力をお貸しくださりありがとうございます。」

いつものようにイザベラは村の教会の祭壇で、その日の感謝の祈りを捧げていた。
すると、目の前が眩い光に満たされたかと思うと、再び天使が現れた。

「今日はあなたに大切なことをお話しなくてはなりません。
 神はあなたに力を授けました。それは『神の愛』の力です。 
 すなわち「博愛」の力です。ですから、間違ってはなりません。
 あなたは、決して、自分が愛する者のためにこの力を使ってはなりません。
 自己の「愛」はおのれの欲を満たすということ…それは悪魔に通じるのです。
 なので、決して、自分が愛する者のためにこの力を使ってはなりません。
 これから、あなたに試練の時が幾つか訪れるでしょう。
 決して、神の道を踏み違えぬよう、どうか、慈悲と御加護を…」

次の年・・村に悪い病が流行り出した。
高熱とともに体中に赤斑が生じ、放置すると死に至る。有効な薬も無かった。
イザベラは自分の「力」を使い、村人をつぎつぎと治していった。
一度回復すれば、もとどおり元気な体になり、再び感染することもなかった。
恐れていたことだが・・やがて、イザベラの両親も発症した。

「おとうさん!おかあさん!」

「いいんだよ、イザベラ、おまえの力は他で使っておくれ…」
「おまえが良い子だということは、私達が一番よく知っている。」
「どうか、神様のお告げに従いなさい。私達は神様のもとに行くだけだよ。」

泣いた・・。
イザベラは教会ではなく、家の傍にあった椎の木の陰で泣いた。
葬儀は簡単なものだった。村人たちはひどく悲しんだが、イザベラの心痛を思うと
言葉をかけることも憚られ、静かにその場を去るしかなかった。
ただひとり、幼い頃から年が近く、イザベラとよく二人で遊んでいたイアンだけは
どうしても離れることが出来ず、そっとそばに寄り添っていた。

ブルネットの髪が腰まで伸び、色白のスラリとした姿はもう少女とは呼び難い
十分な大人の女性だった。イザベラは19歳になっていた。
両親を失った彼女は、幼友達のイアンの家族として生活をともにしていた。
イアンも村の大工関係を一手に引き受ける、頼もしく凛々しい青年に成長していた。
もともと仲の良かった二人が、恋仲になるのになんの矛盾も障壁もなかった。

「イザベラさん!、イアンが!」

その日、教会に審問官が現れ、ペテンで人心を惑わせた咎でイザベラを探していた。
教団内派閥の権力争いが、こんな村の教会にまで及んできたのだった。
尖塔の改修仕事をしていたイアンと出くわし口論となり、お互い剣と斧で相打ちと
なってしまったのだ。

「イアンッ!」
(まだ脈も、息もある!そっちの人もッ)

「どう?…します?」

そう耳元で囁く声が聞こえ、瞬間、視界が停止した。

「誰!」

「これは申し遅れました。私は悪魔、名はバラキエルと申します。
 もうお聞き及びでしょう? もし、その力をイアンに対して使うなら
 私と契約することになります。もちろん?対価はいただきますよ。
 それは貴女の信仰です。もし?契約いただけるなら、貴女は力を失い
 二度と神の名を呼ぶことは無いでしょう。 …どうします?」

流暢に語られる言葉は、心に流れ込むコールタールのようだった。

審問官は命を取り留め、帰還後、真の『奇跡』であったと報告をし理解を求めたが
教団内闘争の壮大なうねりの前では、一個人の証言など虫の羽音に過ぎなかった。
依然、イザベラは教会から疎ましがられる立場だったが、髪を切り名を変えイアンと共に
村を去った。最後に彼女が言い残した言葉を村人たちは今もよく憶えている。

「あーッ、せいせいした!」

その後、奇跡の噂はどこからも聞かれることは無かった。

イザベラという名はヘブライ語の「イザベル」に由来する。
その意味するところは「神に捧げられし者」である。


アバター
2025/05/12 13:29
コメントありがとうございます♪
そう言っていただけると、私もうれしいです☆
アバター
2025/05/12 13:01
おぉ 面白い!!お話をどうもありがとう 楽しかった^^*



管理人
ケニー
副管理人
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全公開
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朝10時~夜24時
カテゴリ
自作小説
メンバー数
16人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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