Nicotto Town


ストーリーテーラーの集まる小さなカフェ

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〇〇〇〇は変人である

投稿者:まさみ

 谷崎先輩は変人である。
 どこが変人かというと。

「ねぇ松森ちゃん、小説ネタ欲しくない?」
 いろいろネタを思いつくのに、文芸サークルに所属しているのにまったく文章を書かない所。
 私が頷くと、どこからかメモ紙を複数枚取り出して、どれがいい?というように私に差し出した。私はとりあえず全部受け取る。
 殴り書きだが筆圧が強めではっきりした字である彼の字は、慣れるととても読み易い。
 しかしその慣れるまでが長く、自分で思いつくほうが早い、と皆は考えるようで、彼のネタを使うのは主に私だけである。

 谷崎先輩――谷崎潤先輩は、私、松森とおるの一つ上の大学の文芸サークルの先輩である。
 4月ごろに初めて会ったときからなぜかなつかれている。理由はわからない。
 顔はそんなに悪くない。身長はそんなに高くない。社交的な性格。いつも笑顔で人懐こい。一人暮らし。
 しかし、何故か飲み会に絶対来ない。

 谷崎先輩は変人である。
 どこが変人かというと。

「やぁ松森ちゃん」
「……先輩、友達とか彼女とかいないんですか」
 授業がない時間は必ず部室に居る所。
 部室とは語弊があるかもしれない。そこは少し広い部屋の一角、「文化系部室」にある文芸部のスペースだ。冷房もあまり効かない。
 あるのは売れ残りという名の過去の部誌のバックナンバー、部員の誰かが書きなぐった創作メモ、テーブルとイスとスチール棚。なにが楽しくてここにいるのだろうか。
「彼女はおらんよ、でも友達はいるよ?」
 あぁ、変人ポイントもう一つ。たまに関西風のアクセントが言葉に交じるところ。
「何が楽しくてここにいるんですか」
 そう言うと先輩は、ニッコリ笑って答えない。

 谷崎先輩は変人である。
 どこが変人かというと。
「彼女ー?おらんし、未だ付き合ったこともないよ?」
 にこにこ笑いながらそう言うと、質問者の女の子はえぇーっ、とオーバーアクションでいう。
「そうですかぁ?谷崎先輩カッコいいから意外ですー!」
「そお?僕、カッコいい??」
「えぇ!」
 質問者は同じ文芸サークルの一年生。昨日私に谷崎先輩との関係性を怖い顔して聞いてきた。恐らく谷崎先輩が好きなんだろう。
 そして彼女はテンプレに乗っているようなことをいう。
「じゃあ私、彼女に立候補してもいいですかっ!」
 うおお。ストレートに告白してきた!
 さて谷崎さんどうしますか!?そのままさらっとOKしますか、それとも照れ顔頂けますか!!
 他人の不幸は蜜の味と言うけれど、他人の恋路も蜜の味だ。ラブストーリーは大好物。
 さぁ、どう来るどう来る・・・・・・・?
 
 先輩の返答は、冷めたものだった。
「そぉ、ありがとね?本気にしちゃうよ??」
 そう言われた質問者ちゃんは、先輩の顔をじっと見た。
 しばらく見つめてから、彼女は―――逃げ出した。
 冗談めかしたノリで言ったのだろうけど、彼女にとって最大限の勇気を振り絞った言葉だったのだろう。
「……酷いことしますね」
 私がそういうと、谷崎先輩は何言ってるのか分かんなーい、みたいな顔をした。うぜぇ。
 そんな思いを込めて見続けると、ようやく先輩は観念したみたいに両手を挙げた。
「彼女、恐らく本気でしたよ」
「そぉ?ならヒドイコトしたなぁ。あの子もこんな僕に幻滅したに違いないね。可愛さ余って憎さ百倍、あの子は今頃僕を嫌ってるだろう。嫌いな奴にこれ以上話しかけられるほど嫌なことはないね、僕はもう彼女に近づかないようにしよう!」
 この長台詞をニコニコ顔で言い切る。なんだか反省していないだろアンタ。
「……謝らないんですか?」
私がそういうと、きょとんとした顔になった。……やっぱり。
「……謝るのってさぁ。」
 何か言い出した。
「謝るのって、まだまだ友達でいたい、関係を続けたい人にやるもんだと思うんだよね。」 
「彼女とはもう関係切りたいと?」
 私は彼の言い訳を先回りして言う。
 先輩は頷いた。
「この世に異性が何人いると思ってるの?同性も入れたら二倍だよ?その中に僕の代わりや僕よりイイのが絶対いるだろ?僕なんかどまりなんて彼女にとって不幸だろ。僕は彼女のためを思えばこそフッたのさ、いま思いついたことだけど……」
 
 異性に対して優しそうで冷酷なところ。
 友人までなら優しいが、それ以上踏み込もうとするとスッパリと斬る。
 私はまだまだ友人扱いで、それ以上になろうとか思いもしないけど、それゆえに一番仲が良く見える。
 私は、先輩はネタ屋として利用する。あと、面白い観察材料として。
 私は変人とかヤンデレとか、おかしいキャラが好きなのだ。

アバター
2024/06/29 19:51
『変人である』って繰り返されるところが面白い!いい作品。
アバター
2024/04/03 10:01
まさみさん、

入会していただきまして、ありがとうございます!

これ、面白いですね〜!
「谷崎先輩は変人である。」の初めからすでにこの物語の舞台である大学の文芸サークルの雰囲気が出てるし、谷崎先輩は、ストーリーの中ですでに自動的に動き始めているようです。
良いストーリーとは何か?っておれなりの持論があって、それはストーリーの中で登場人物が自動的に動き始めることなんです。
その人物たちが自分で動いているから、作者はあとからその行動をフォローするように書くような感じになると思うんですね。

これは、たぶん、長編小説の出だしですね?
谷崎先輩、松森ちゃん、あと、文芸サークルの一年生の女の子、この短い文章の中で、すでにこれらの登場人物たちの姿形まで想像できるようでした。
面白かったです〜!

素敵な本を一冊、このカフェに増やしていただいて、ありがとうございます!
アバター
2024/04/03 02:11
 大昔に書いていた文章を発掘してきたので自己紹介代わりに投稿いたしました。



管理人
ケニー
副管理人
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参加
受付中
(今すぐ参加可能)
公開
全公開
カフェの利用
朝10時~夜24時
カテゴリ
自作小説
メンバー数
12人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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