月世界
- 2024/03/02 16:51:24
投稿者:ロワゾー
ハリ・ハリ・アウァツァラティ(いたいのいたいのとんでいけ)
こうとなえると、地上でだれかの苦痛が生起されたとき、まろやかな真珠層の、ひかりの被膜がそれをくるんで、一りゅうの輝きがうみなされる。そしてしたたり、上天へ、月へとおちていく。
月上には水の記憶の海があり、その底には寺院がある。
雨滴のごとくふる真珠は、多くは到達することもなく、とけて漂いちってしまうのだが、ときに底に至り、月の寺院の尼僧に拾いとられる。
聖像らの額飾り、耳飾り、へそ飾り、あるいはその目や古拙的に笑むくちもと、膚のひかりや薄衣のつやに彫琢され、塗布される。やがて白螺鈿のきらめきとなって剥離し、月の海へ漂いうせていく。
尼僧らはおだやかにたえまなく美しい行をする。
まれに、はりさけて蓮形に花ひらくものがある。
そうしたものは碧白い香油にひたして祭壇に祀り、祈りをささげる。
百年もすると、かたちも香気もきえうせ、からっぽにすきとおった玻璃だけが残る。
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月といえば、むかしこんなの書きました。
そのまま、何かの(もしくはこの本がもし長編になるなら)小説のタイトルになりそう。
美しいですね。