Nicotto Town



触れたあとに、光が残った

風がテーブルを撫でるたび、
そこに君の手のぬくもりが
ふいに戻ってくる気がした。
あの日、ふと触れた瞬間の体温が
時間を越えて、
今もこの部屋に棲んでいる。 涙が出そうになるのは、
たぶん哀しいからじゃない。
まだ名前のついていない感情が、
心の奥で静かに膨らんでいるだけ。 ほら、君...

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僧侶

白蓮の香に 眉ひそめし若き僧
罪なき微笑 夜の夢さえ惑わす


曇り空。

曇り空。
澄み切ったスカイブルーにも、
底なしの漆黒の闇にも宿らないものがある。
それは水底に沈む真珠のように、
光を奪い、影を溶かし、
ただひそやかに息づく完全無欠のグレー。 この灰色は、境界を拒む霧。
輪郭を吸い込む深い湖面。
色彩のすべてを秘めたまま、
どこへも還らず漂う亡霊の...

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薄い硝子の距離

君の言葉は、
水に溶けきらない薬品のようだった。
かき混ぜても、沈殿して、
僕の底を濁らせる。 だから僕は、
声の層にそっと透明の膜を張る。
聞こえるふりをして、聞き取らない。
笑うふりをして、まぶたの裏に帰る。 君の存在は、
花瓶に刺さった造花に似ていた。
色はあるのに香りがなく、...

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・・・

待ち合わせたわけじゃないのに、
その人は、記憶のほうから歩いてきた。 駅の光は、まるで封印を解くようで、
十年前の僕が足元に立っていた。 声はかけられなかった。
まなざしは、今と昔のあいだをすり抜けて、
何も交わらないまま、風だけがふたつの時間を結んでいった。 ポケットのスマホは冷たく、
...

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