「たしかに、子は父のものだ。しかし、父が子をぶつと、子は母の離れに行って慰めを求める。万事順調、素晴らしい人生なら、子は父の故郷のもの。しかし、悲しみと苦しみがあれば、母の故郷に庇護を求める。母はここでお前を守ってくれる。この地で母は眠っておる。だからわしらは、母は至高なりと言うのだ。オコンクウォよ...
「たしかに、子は父のものだ。しかし、父が子をぶつと、子は母の離れに行って慰めを求める。万事順調、素晴らしい人生なら、子は父の故郷のもの。しかし、悲しみと苦しみがあれば、母の故郷に庇護を求める。母はここでお前を守ってくれる。この地で母は眠っておる。だからわしらは、母は至高なりと言うのだ。オコンクウォよ...
事情を聞くと、不幸の手紙がみんなの机の中に入っていたのだという。
姉の机にももれることなくその手紙は入っており、文面には子供のつたない字で「これは不幸の手紙です。これを読んで三日以内にこれと同じないようの手紙を十人に出さないと、あなたは一しゅう間いないに死にます。東京に住む野田ともみさんがこの...
あの男の子のことを憶えてる、パパ?
ああ。
覚えてるよ。
今でも元気でいると思う?
ああもちろん。
元気でいると思うな。
でも迷子になっちゃったかな。
いや。
迷子にはならなかったと思うよ。
迷子になったんじゃないかって心配なんだ。
あの子...
指示どおり三枚の書類のそれぞれの箇所に、それぞれの必要事項を記入しながら、「いや、あれからずっと考えてたから。実際、月二千円であの式場は魅力だよ」
白いバルコニーに肩を寄せて立つ二人のモデルが、脳裏に浮かんだ。
はじけるような花嫁の笑顔は記憶にあったが、新郎の顔がどうしても出てこない。
...
中年の男が言った。
「監督さん、こんな木偶の坊に腹を立ててもはじまりませんぜ」
監督は黙って、鼻の孔から煙をはき出した。
煙草のヤニで茶色になった指が、籐の鞭を握ってせわしなくうごめくのが見えた。
中年の男は、監督のポケットに煙草の箱を押しこんだ。
監督はまるで気づかぬ...