あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。
けれど、たった十九歳だったのだ。
わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。
十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。
いつかは必ずばれる。
休日にふたりでだらだら...
愛と平和を
あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。
けれど、たった十九歳だったのだ。
わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。
十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。
いつかは必ずばれる。
休日にふたりでだらだら...
ジャケツを持っていくか? と、中佐はうしろを振りかえった。
いや、営倉ではジャケツを取りあげてしまい、防寒服だけしか認めないのだ。
じゃ、このままでいこう。
中佐はヴォルコヴォイが忘れてしまうことを期待して(とんでもない、ヴォルコヴォイはだれに対しても決して忘れたりはしない)、なん...
杉木立の中に、二人の男女が半分雪に埋れて倒れていた。
雪は二人の男女の顔の高さとすれすれに降り積っており、四辺は少し蒼味を帯んだひどく静かな世界だった。
鮎太はやっぱりお姉さんだったと思った。
男の方の顔は半分雪面に俯伏しているので誰か判らなかったが、鮎太はそれを確かめなくても、そ...
「あなたは立派な若者よ」と玄関先でミセス・ヒュームは言った。
「ミスター・トマスにあなたがどれだけ優しくしてあげたか、私は絶対忘れませんよ。あんなに優しくしてもらう権利なんかないことも多かったのに」
「誰だって優しくしてもらう権利はありますよ」と僕は言った。
「誰であろうと」
...
小さな屋根裏部屋の窓を濡らして月光が差し込んでいた。
——兄さん。
いつかあなたの展覧会を開こう。
大きな美術館で、世界中からあなたの絵を見るために、たくさんの人が押し寄せるはずだ。
あなたの絵は、海を渡って、遠くまで旅をする。
きっと日本までも。
そうだ。
...