彼は収容所に入ってまもないころ、天と契約を結んだ。
つまり、自分が苦しみ、死ぬなら、代わりに愛する人間には苦しみに満ちた死をまぬがれさせてほしい、と願ったのだ。
この男にとって、苦しむことも死ぬことも意味のないものではなく、犠牲としてのこよなく深い意味に満たされていた。
彼は意味も...
愛と平和を
彼は収容所に入ってまもないころ、天と契約を結んだ。
つまり、自分が苦しみ、死ぬなら、代わりに愛する人間には苦しみに満ちた死をまぬがれさせてほしい、と願ったのだ。
この男にとって、苦しむことも死ぬことも意味のないものではなく、犠牲としてのこよなく深い意味に満たされていた。
彼は意味も...
「あの木が、ひとりぼっちのわたしの、たったひとりのお友だちなんです」
彼女はそう言って、病棟の窓を指さした。
外ではマロニエの木が、いままさに花の盛りを迎えていた。
板敷きの病床の高さにかがむと、病棟の小さな窓からは、花房をふたつつけた緑の枝が見えた。
「あの木とよくおしゃべ...
「ほんとうに行くのか?」
「ああ、行くよ」
友人の目に涙が浮かんだ。
わたしは言葉をつくして慰めた。
だが、なにはともあれわたしにはすることがあった。
遺言の口述だ……。
「いいか、オットー、もしもわたしが家に、妻のもとにもどらなかったら、そして君がわたしの妻と再...
区長たちの顔には、複雑な表情がうかび出ていた。
銀四郎が乞いをいれてやってきてくれたことに安堵を感じていたが、同時にかれに対する嫌悪も重苦しく胸に湧いていた。
懇願されてやってきた銀四郎は、傲慢な態度をとるにちがいなく、それをどのように扱うべきか不安であった。
銀四郎が、男たちとと...
彼の心は重く、昨晩から物悲しい気分だった。
宝物を探し続けるということは、ファティマを捨てなければならないことを意味していた。
「わしがおまえを案内して、砂漠を渡ろう」と錬金術師は言った。
「僕はオアシスにずっといたいのです」と少年は答えた。
「僕はファティマを見つけました。...