Nicotto Town



空白遊泳 2


 二人はしばらく黙って、丸い明かりが作った影をじっと見つめていた。やがて高いのがぽつりと言った。「何かいるね。見えないけれど、確かに」 それを聞いた手摺は怯えきって、夜気にますます冷えていった。丸い明かりは、また黙り込んだ二人の顔を照らしてじっくりと観察した。二人はかすかな笑みを浮かべて、ただ遠く...

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空白遊泳 1


 階段は静かに佇んでいた。 階段の足元の先に並ぶショーウインドウが暗くなってから、ずいぶんと時間が経っていた。先刻まで聞こえていたレールの響きも消えた。駅も眠りに就いたろう、と階段は思った。時折、人の靴音が遠くから聞こえるほど、街は静まっていた。 誰もいない。 階段が胸の内で小さく溜息をつくと、そ...

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再生 2


 ざわめきの破片は今や降りしきる雪と混じり合って、紙吹雪のように美しかった。くるくると回りながら落ちてくる光の切片が、私たちの髪や肩にとまり、水の粒へと還っていった。その人はふいに立ち止まると空いた手のひらで雪を受けとめ、じわりと溶けるのを見ていたが、その手をすっと私の目の前に差し出して言った。「...

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再生 1


 星に願いをかけたのは昔の話だ。 そう遠くないことの筈なのに、それは昔のことだった。 私たちの間に在る、ただそれだけのことで、時間も速さを変えてしまう。 だから今は、星よただ頭上にあれと願うだけだ。 ゆるい下り坂が続く。遠く、坂の終わりの角からふいに曲がって来た車のヘッドライトが、私の吐く息を白く...

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水滴の国 2

 一緒に居るだけで他に何もない二人だった。 およそ暮らしてゆけるとも思えないほど何もないきみの部屋の窓辺で、一応吊るされていたカーテンを弄んでいると、きみは向こうの壁に凭れて座り、脚を投げ出して黙り込む。テーブルがないのでカップも床に置く。ハンガーもないので着る物はすべて押入に放り込んである。「動物...

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