古びた町並み。人気と明かりが無くシンとしていて、この世には自分以外誰もいないのではという錯覚を引き起こす。
気まぐれにふと見た夜空にある満月があまりにも妖しい美しさを纏っていたので、幻覚かと一瞬思った。今までに見たことも無いような、女のような色香がその姿から感じられる。
けれどもこの虚ろな眼に映るの...
日日是悪日
古びた町並み。人気と明かりが無くシンとしていて、この世には自分以外誰もいないのではという錯覚を引き起こす。
気まぐれにふと見た夜空にある満月があまりにも妖しい美しさを纏っていたので、幻覚かと一瞬思った。今までに見たことも無いような、女のような色香がその姿から感じられる。
けれどもこの虚ろな眼に映るの...
すごいすごいすごい!
まるでたくさんの楽器から溢れだす音色たちが、絡み合って一つになって、そうしてこの空間を自由に飛び交ってるみたい!
見学として訪れた高校の管弦楽部の演奏に、私は一瞬で虜になった。
曲目はあの有名な「ファランドール アルルの女」
情熱的で、でも切なくて。ヴァイオリンの音が体育館に凛...
辺りはすっかり夕暮れ。目を見張るほどの美しい紅色のグラデーションだ。
私と息子が下る坂道には、掌同士をを結んだ長さの違う黒い影が映っている。
前に進むたびに隣の影の頭がひょこひょこ揺らいで、何とも心が和む。
純一が痛がらない程度に手を握り直せば、嬉しそうに顔を緩め、繋いだ腕を前後に大きく揺らした。
...
「海が見たいな」
ぽつり。誰に言うでもなく、ひとり言のように詩菜(うたな)は呟いた。
「海だったら、見えるじゃない」
リンゴの皮をむいていた手を休め、詩菜の方へと顔を向ける。
真っ白で清潔な、病院独特の匂いが染み込んだシーツの上に広がる詩菜の茶色い髪が、よく映えた。
「うん、そうだけどさ。違...
夜。
窓の向こうに、まあるい満月を見つけた。
黒い画用紙に、コンパスで正確な円を書き、そこを綺麗にくりぬいたような。
それくらいの、ち密な美しさだった。
どうしてもこの感動を伝えたくて分かち合いたくて、棚の上にあった電話を持ち出し、
膝の上に載せて窓の隣に座った。
慣れた手つきで、番号を押す。
月...