仮想劇場『世に万葉の花開け』
- カテゴリ: 自作小説
- 2022/01/06 15:02:34
「いい塩梅で年を治めて今日を迎えた事を切にありがたく思うよ」 キミはそう言って窓辺に立つと喫茶店の下を疎らに歩く人々を優しい目で見下した。【自分は特別だ】とか【無能は不要だ】とかいったイタい言葉をすぐ口にするキミにしては、やけに殊勝な呟きだなと思って僕は思わず天井を見上げフと笑った。
2022...
「いい塩梅で年を治めて今日を迎えた事を切にありがたく思うよ」 キミはそう言って窓辺に立つと喫茶店の下を疎らに歩く人々を優しい目で見下した。【自分は特別だ】とか【無能は不要だ】とかいったイタい言葉をすぐ口にするキミにしては、やけに殊勝な呟きだなと思って僕は思わず天井を見上げフと笑った。
2022...
小さく息を吐きながら彼女の訪問をただ待つ。 時計の秒針がキリキリと油の抜けた音を刻んでいる。 呼び出しのベルは鳴らせない。それでも通知は常にONだ。
僕にかけられた制限は僕自身の罪が作り出したもの。 そこに異論を唱えるほうが不自然だから黙ってそれに従っている。 人生の大半を不自由の中で果敢に過...
「死にたい」と呟いて川面を見つめて、そっと目を閉じ悔し涙を落とした。 川底から伸びる無数の慈悲深い負け組の手に身を委ね、キミは一度だけ空を見上げそのままの姿勢でダイブした。
「なんのために」と僕が言った。「誰の所為で」とも確かに言った。 誰も答えてはくれなかったが不満に届くほど辛辣にもなれない。 ...
「またこんなところに迷い込んで・・・」と彼女が言った。「こんなところだから迷い込んだのさ」と僕は言い訳する。
僕の素顔を覗こうとして、僕に憑りつかれたあの人のことを想うたび真っすぐ歩くことが困難になる。だからこそ出口のない町で死に体のまま彷徨うほうを僕は自ら選ぶのだ。
「そんなの言い訳にもならな...
大きなため息で肺が空っぽになったんで、今度はヒツジ雲を見上げながら腹いっぱいに秋の澄んだ空気を吸い込んだ。 僕はそれ以上のものを望まない。それだけで今は充分に満たされている。
学生時代、いつも金が無くって結構無茶なバイトをした。今にして思えばあの頃の僕は後先のない窮屈な人間だったと思う。言い...
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