Nicotto Town



自作小説倶楽部7月投稿

『魔法円のある図書館』
歓声と人が走る音に私はページから視線を上げた。遠い場所から聞こえて来るような響きに不安を覚え、周囲を見渡す。私をぐるりと取り囲む書架の隙間に何かが見えたような気がしたが、私の足は動かなかった。ページに目を戻す。余計なことに煩わされるより楽しい物語を読んでいたい。そう思って読書...

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自作小説倶楽部6月投稿

『愛しの・・』
「あの女がアナベルだという証拠と、詐欺師だという証拠を見つけてください」依頼人は俺のあいさつを遮ってまで主張を始めた。依頼の説明ではなく『持論の主張』であって証拠のあるなしに関わらず結論は依頼人の頭の中で完結している。探偵に期待していることはトリュフ豚のように望みのままの証拠を掘り出...

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自作小説倶楽部5月投稿

『殺人予定』
___奥様のことはお気の毒でした。影が立っていた。いや、西日がまぶしくてこちらを向く刑事の姿が影になっているから見えないのだ。不気味な奴だ。痛み止めが効いているせいか頭がぼぅっとして上手く考えがまとまらない。奥様? 妻?生命の残滓すら失い。肉塊と化した妻の躯を地下室に運んだ時の重さと触...

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自作小説倶楽部4月投稿

『隣の彼女』
「まあ、ご丁寧に」と斎藤さんは白薔薇のように美しく微笑んだ。そんな気障な例えが浮かんだのは彼女がまとう香りとレースのたくさんついたブラウスのせいだ。さすがは都会、すごい美人がいた。「上下左右の部屋の住人の顔くらい見ておきなさい」と配布用の菓子を送りつけて来た母に少しだけ感謝した。持参し...

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自作小説倶楽部3月投稿

『手のひらの上』
「今、貴女は人生の岐路に立っています」占い師は少し軽い口調で言った。深刻に悩んでいる客になら、もう少し重々しい調子で話すだろう。しかし目の前にいる女は好奇心に目を輝かせて耳を傾けている。シナリオ通りで、楽しい展開をお望みだ。ならばプロとしてそう振る舞うのみだ。女は薄明りの中でも十分...

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