Nicotto Town


しだれ桜❧


 

刻の流れー121

そこは、モニターだらけの部屋だ。いや、薄暗がりで闇に慣れた犬飼の目はREC用の赤いランプも見逃がさない。レコーダーなどの機器が発する熱で冷房していても機械油のむっとする臭いがする。犬飼はポケットから薄手の手袋を出して、手にはめた。モニターの幾つかには、先ほど犬飼がいた大広間の映像が写っていた。次々に...

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刻の流れー120

「いくつか、聞いていいか?」「お答えできることでしたら。」「ひろみは?」秘書の女は、心持、気遣う顔つきになって、「内田様は、お元気でいらっしゃいます。」と、答えた。「そうか・・・」犬飼が頷くと、女は目を細めた。「田中の執務室は、4階にございます。お支払いの件をお忘れなく。」「ああ、絵と引き換えに、ひ...

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刻の流れー119

目の前に地味なスーツの女が一人立っていた。40過ぎのその女は黒ぶちのメガネをかけ髪を後ろにきちんと束ねて黒いピンで留めていた。アクセサリーも無ければ、化粧も薄い。きらびやかな大広間に場違いなまでに飾り気がなかった。周りの客や従業員は、女を完全に無視している。それほど存在感がないのだ。「いらっしゃいま...

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刻の流れー118

エレベーターのドアがしまると、犬飼はまず、ストップボタンを押した。シェフコートを脱ぎタキシード姿になる。コートは素早くたたんで、上着の下の背中に挟んだ。次に髪の乱れを櫛で整え、タキシードのしわや、埃を除く。瞬く間に厨房の下働きから、紳士に変身を遂げると、犬飼は、ストップボタンを解除して、大広間のある...

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刻の流れー117

紐育倶楽部の厨房は大忙しだった。客の数がいつもより多いわけでもないのに、食事の時間が重なってしまっている。普段は田中が巧みに時間をずらして予約を取るためこんな事にはなったりはしない。それが、田中が神戸に出払っている間の自分の代理に立てていった男が、段取りの悪い奴で厨房の不評を買ってしまっていた。メニ...

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