Nicotto Town


しだれ桜❧


 

刻の流れー126

ビールがぬるくなってきた。それでも編集長は男が資料を最後まで読むのを辛抱強く見守っている。
「ふうう・・・」
ようやく読み終えた資料を丁寧にそろえ、自分の脇においた男が、大きくため息をついた。
「今は、明日の朝が待ち遠しい、としか言えんな。」頬が高潮しているのはビールのせいだけではない。この男は珍し...

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刻の流れー125

編集長の交際範囲は広い。それは、紳士淑女に留まらず、その世界の裏側にいる義理も恩もないが金では繋がっている輩も知人のなかにはいる。積極的にお友達ではないが、持ちつ持たれつという関係だ。「RRRRRR」「はい」ヤクザな事務所には不釣合いなほど明るい声の男が電話に出た。「俺だ、編集長だ。長崎はいるか?」...

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刻の流れー124

「RRRRR・・・・」編集長が持つ受話器から相手を呼び出す呼び出し音が聞こえた。「もしも~し」電話に出たのは、いつもの間延びのした穏やかな声だ。「おっしょはん 久しぶりだね」「あら、その声は編集長」おっしょはんの声が、心なしか弾んでいる。編集長にも犬飼が決めたコードネームがあるのだが、「俺は、数字で...

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刻の流れー123

出版社は、いつもの事で、ほとんどの人間が出払っていた。若い編集者が一人、暗室と編集室を行ったり来たりしている。
なにやら真剣に新聞を読んでいた編集長が椅子を回転させて窓を見やった。日は落ちたが、まだ外は薄明るい。桃色とパープルののグラデーションが空を彩っている。
「しかし、どうもおかしい・・・」
こ...

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刻の流れー122

犬飼は、エレベーターにさっき教えられた暗証番号を打ち込み箱を呼んだ。どうやら、このエレベーターを使うのは限られた人間だけのようで、呼べばすぐに箱が来る。「で、こんどはどこへ連れてってくれるんだ?」4階のボタンを押しながらつぶやいた。『チーン』機械音が響くとエレベーターのスライドドアが開いた。こんどの...

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