Nicotto Town



水滴の国 1

 それが重くなければ抱えられることはなかったろう。一吹きの息で飛び去るものだとか、ビルの窓からふわりと舞うものであれば、指先でつまめばよいのだから。



 その夜、小雨が降っていた。 コンビニの袋を下げて私は歩いていた。昼には夏を思わせる日差を窓の外に見ていたのに、夕刻には風が雲を連れてきてあっけ...

>> 続きを読む


EMPTY


 君の手が楽しげに林檎の皮を剥いていた。くるくると回る林檎から細長く繋がって、皮の先端は床に届こうとしている。螺旋の間に見える赤が下の方に移動しつつ、息を止めてゆく。僕は腕を伸ばして、林檎の皮の先を掴むと引っ張った。「あ、」 細長い皮は林檎から離れて落ちた。「せっかくここまで繋がっていたのに」 君...

>> 続きを読む


彼女の亡骸

「あなたは自分の屍体を見たことがありますか」 そう言って、彼女はゆっくりと銀の匙でコーヒーをかき混ぜた。 いいえと答えると「そうでしょうね」と微笑んで、「私はありますよ」と続けた。砂糖とミルクを混ぜられたコーヒーは、匙を抜いてもしばらく回っていた。 その回転を見ていた僕は、まるで目眩のように感じて、...

>> 続きを読む





Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.