限りなく続く音(12)
- カテゴリ: 自作小説
- 2026/05/31 16:44:37
車が山を越えると、町並みの向こうに海が見えてきた。 その時、私の胸に広がったのは、やはり郷愁だったのだろう。もう何年、海を見ていなかっただろうか。 私は大学進学を機に家を出た。東京の大学に進んで、一人暮らしを始めた。この故郷の海から離れるために、そして祖父の居た家から離れるために。 草太の命を奪っ...
車が山を越えると、町並みの向こうに海が見えてきた。 その時、私の胸に広がったのは、やはり郷愁だったのだろう。もう何年、海を見ていなかっただろうか。 私は大学進学を機に家を出た。東京の大学に進んで、一人暮らしを始めた。この故郷の海から離れるために、そして祖父の居た家から離れるために。 草太の命を奪っ...
目覚めると、白い天井に光が四角い形に映っていた。それが時折揺れる。軽く首を動かすと、開け放した窓辺でカーテンが風に揺れていた。(朝だ) だが、私の部屋ではなかった。ここによく似た部屋を知っている。そこに居たのは、祖父だ。病院だとわかって、私はほっとした。(良かった、助かったんだ) だから草太も助か...
私が草太を探しに出たのは夕刻だった。 母は私の手に包帯を巻きながら「そっとしといてあげなさい。そう遠くへ行ける筈もないし、すぐに戻るわよ」と言った。私は(お母さんがそう言うのだから、その方がいいのだろう)と思ったが、それは先刻の草太に恐れを感じたことへの言い訳だったかもしれない。 私は浜へと自転車...
私たちは寝ぼけ眼で朝食を採り、水着の上に服を着て、母に小言をくらう前に家を出た。夜中に抜け出したことは気付かれなかったようだったが、私たちは眠かったのだ。物置からパラソルを引っぱり出し、草太がそれを担いで海へ向かった。 二人で砂を掘ってパラソルを立て、シートを広げると、私は日陰に転がった。草太はシ...
もと来た道を引き返しながら、草太は自分のことをぽつりぽつりと話した。祖父の墓の前で泣いているうちに、いろいろと思い出すことがあったのだろう。 泣いた後には、必ず穏やかな静寂が訪れる。それがなぜなのか私にはわからないが、私はこの時初めて、(やみくもに泣いてもいいのかもしれない)と思った。泣き疲れて深...