「契約の龍」(145)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/01/15 12:08:34
軽くこめかみを押さえて溜め息をつく。
「あーなるほどね。…撫でて気が落ち着くんだったら、思う存分どうぞ。その代わり、こっちが我慢できなくなったら遠慮はしないからな」
「思う存分、って……」
クリスが苦笑する。
「そう言われて早速手を伸ばせると思う?」
「……クリスが出さないなら、こっちが出す」
手をのばして背中側に回し、クリスの体を抱きしめる。腕の中の体が軽く息を呑み、可愛らしい声を上げる。
「俺の好きにしていい、って約束だったな?」
クリスの返事を待たずに背中に回した手を腰の方へ滑らせる。堪えきれない様子で吐く吐息が熱い。腰の丸みに沿って滑らせた手を、そっと下へ動かす。
「好きにしていい、とは言ったけど、……応じるとは限らない、って…」
体をこわばらせたクリスがかすれた声でそう言う。
「へえ…応じる気は、無いんだ?…本当に?」
空いた方の手で、クリスの喉元を撫で上げる。そのまま顔を上向かせると、うっとりとまぶたを伏せている。
「そんな顔しといて、応じないって言われても説得力が無い」
「……体が反応するのは、別問題」
そっけない言葉とは裏腹に、それを吐く声は甘い。
「じゃあ、応じる気になるまで、存分に触らせて貰おう」
ほとんど触れそうになるまで顔を近づけてそう言うと、「…意地悪」とつぶやいたクリスが手をのばして俺の顔を引き寄せた。
「寝かせない、っていうのは、冗談じゃなかったんだ?」
触れ合わせた唇の動きだけで、クリスがそう問う。
「クリスが、すぐに戻ってくる、という確証があれば別だが?」
同じく、唇の動きだけでそう答える。
「…確証なんか、ない」
あまりにもきっぱりと言い切るので、ちょっと笑ってしまった。
「…あのね、私の頭は、この後大変だから、早く休んだ方がいいって命じるんだけどね」
「うん?」
いきなりの甘え口調に耳を疑う。
「…私の心と体は、そうするのを嫌がるの。……どっちに従った方がいい?」
「……そんな事可愛く訊かれたら、眠くなるまで可愛がってあげよう、って事になるが?」
改めて、そんな事を言いだした目の中を覗き込む。
「大変なのは、主にアレクの方なんだけど?…それに、アレクを寝かせたまま出かけたら、何するか判らないんでしょ?」
「どのみち、寝付けないのは、同じだ。だったら、気が楽になる方がいい」
寝付けないのなら、朝まで起きていればいい。そう開き直れば、気が楽だ。