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■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値(39)

■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値|七 (2)

また美を眞の方便とするものでも、それが誠の藝術家である限り、最初の動機の如何に拘らず、筆を執つて紙に莅んだ瞬間からは藝術的態度に入らざるを得ない。即ち己れが個人として社會を思ひ、科學を慕ふ一念は、しばらく其の方便として撰んだ眼前の材料を活描せんとする一念に地歩を讓らざるを得ない。言ひかへれば之れを文藝として文藝の目的に從つて取り扱ふ外如何ともしかたが無くなる。如何なる動機から生ずる文藝でも、結局美の一義に括られるに於いて二つは無い。たゞ美の内容に變化があるのみである。世上往々審美上の醜と道徳上の醜とを混じて道徳上の醜惡を描くことが直ちに美を超越するものと考へるのは誤りである。美とは人間一切の現象を包容し得る文藝の終極點の名であつて、美を破るといふことは文藝で無くなるといふことに外ならぬ。



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*註1:また美を眞の方便と
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:莅んだ瞬間
「莅」の異字体。「位」の左に「サンズイ」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ri_nozomu.jpg

*註3:社會を思ひ
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註4:方便として撰んだ
「撰」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sen_erabu2.jpg

*註5:眼前の材料
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg」

*註6:之れを文藝として文藝の目的に・生ずる文藝でも
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註7:美の内容に
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。

*註8:道徳上の醜・道徳上の醜惡
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg

*註9:誤りである
「誤」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/go.jpg

*註10:現象を包容し
「包」の旧字体。「己」が「巳」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tsutsumu.jpg

*註11:終極點
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg

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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html




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