闇の馬
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/23 16:46:57
その日、着飾った中年の男が召し使いを連れ城下町の傍の森の中を馬に揺られていた。男の名はシビラ。
この森を抜けた先の城下町を訪ねて行くところだ。
初冬の森の中は葉を落とした木々の枝を透かし、柔らかな午後の日差しが降り注いでいた。少ししてシビラは森の中央部、少し開けた場所に、粗末な木の小屋が建っているところに出ることができた。
扉の脇にはまだ若いが手入れをされた小さなリンゴの木があり、冬のさなかの今は葉を落としている。その低い枝に一羽の深いスミレ色の目をしたカラスが留まっていた。
シビラは馬から下り、一人小屋へ向かって歩みを進めた。
扉が開き、清潔だがみすぼらしい長衣を着た男が出てきた。明るい茶の髪、優しい風貌のその男はどう見てもシビラより若い。青年といっても良い年恰好である。
「何か御用ですか?」
「食事がしたいのだが。そうだな、過分な額だがこの銀貨を一枚そなたにやろう」
シビラは背筋を伸ばして威風堂々と言った。
「ああ、・・それでしたらどうぞ。謝礼などは要りません」
青年は言って肩をすくめた。いたってどうでも良いといった態度である。
シビラはカチンと来た。
「その態度は何かね。私がわざわざ銀貨をやろうというのに。銀貨だぞ」
カラスは枝から青年の肩に飛び移ると、首をかしげてそんなシビラを見やっていた。
青年はまっすぐにハシバミ色の瞳をシビラに向けた。
「私には必要ないからそう申し上げたのですよ」
そういって青年は背を返し、小屋の戸を開けた。
シビラは思った。寛大にもこの貧しげな男に過分な富を施してやろうというものを・・・愚かな奴め。わざわざ親切にしてやったのに受けぬとは。気に食わん。糞生意気な奴だ。
シビラが粗末な椅子に座ると、青年はパンとりんごを一つずつ、水差しに入ったミルクとカップをテーブルに置いた。
「随分粗末なものだな、まあ、この生活では仕方があるまい」
食事を済ませ、部屋を見渡すと、さまざまな物が棚に並べてあるのに気付いた。
そのうちの一つがシビラの目を引いた。つややかな漆黒の馬の像である。すばらしい出来で、まるで生きているようだ。
「おお、これは素晴らしい。私にこれを売ってはくれんかね?謝礼は十分にしよう」
それを聞いた青年は静かに言った。
「その置物はおよしなさい。その馬は闇の馬の彫像です。私には要らないものですが・・・」
「闇の馬?」
「清い心の持ち主に害はありませんが、あなたにはね・・・・・」
「なんだと?!」
シビラは顔を真っ赤にして立ち上がった。
この若造がなにを言う!私は高潔にして慈悲深く、寛大な男だ。頭も良いからこれだけの富も手に入れたのだ。この若い男はきっと、この美術品を手放したくないからこんな馬鹿な脅し文句を言っているに違いない。
シビラはすばやく馬の彫像を手に取った。
とたんに小屋の中は薄闇に包まれた。青年も、カラスも、扉も、窓も消えた。出口のない石の小部屋。
そして馬の像は見る見る実物の馬の大きさへと膨れ上がった。
漆黒の体の見事な馬だが、普通の馬ではない。蹄ではなく、ナイフのような鉤爪を持ち、口元からは鋭く長い犬歯が覗いている。
閉じられていた馬の目がゆっくりと開くと、燃える石炭のような赤い目がぎらぎらと輝いていた。たてがみと尾は、黒い炎でできているように燃え上がり、揺らめいている。
馬はシビラの方に向き直った。ゆっくりと鉤爪が開き、かっと開いた口の中には、鋭い牙がいくつも見える。
声もなくシビラは後じさった。小屋の壁に背中が当たるが、どこにも逃げ場はない。馬は後足で立ち上がり、轟くようないななきをあげた。馬が襲い掛かってきた。鋭い鉤爪がシビラの肩に食い込み、牙いっぱいの真っ赤な口が目の前に・・・・・・。
シビラは絶叫した。意識が遠くなる。そのときどこにいたのか先のカラスが馬の背に飛び乗るのが見えた・・・
気がつくと、青年が傍らの椅子に静かに座っていた。カラスはテーブルに置かれた馬の像の上に留まり、目を細めてシビラを見ていた。
「だからおよしなさいと言ったでしょう。あの像は心の闇を体現する物なのですから」
シビラは真っ赤になってへたばっていた椅子から立ち上がると、小屋を飛び出した。
「私を馬鹿にしおって!若造が!!変なまやかしを使いよって!」
怒声を上げて小屋の前の罪のないりんごの木を蹴りつける。
それでもシビラはあの像にもう一度触れようとは思わなかった。肩に疼痛が残っていたからだ。彼はよろけながら馬に乗り、馬に拍車を入れた。召使たちがあわててあとを追った。
カラスが彫像から青年の肩に飛び移り、耳元にくちばしを寄せて、つぶやいた。
「命を落とす前に制止できて良かったわ」
青年はカラスにかすかに微笑むと、馬の彫像を元の棚に返した。
巨木が茂る森。その深い森の中央には賢者が住んでおり、悩める人々がその賢者に導きを求め、訪ねるという。いつしか森は賢者の森と呼ばれるようになっていた
それは愚者とは申しませぬぞえ。
気にしなくていいからね。
食事取れなかったですか~。今日はどうかな?食べられたら良いね。
ぼちぼち行きましょ^^
昨日は本当にありがとうございました。
あまり食事も摂れなかったんですけど
朝まで眠りました。今日はどうなるのかな~
あけましておめでとう~ございます。今年もよろしくね。 忙しそうだね~。お疲れ様~
己が闇を真摯に見据えるものには、牙を剥かぬということですねえ。
いかなる人も、自分にも闇があるとは誰も認めたくないけれど、そこはきちんと把握して認めておかなくちゃいけない。
なぜならそれも、自分だから。
あたしも闇の馬に触れられるようでありたいです。
持ち主である賢者も、闇の馬も、それは百も承知のことでしょう。
闇の馬はなぜシビラに悪夢を見せたのか
シビラの帰り際の態度にすべてがあると思います。
人は誰でも闇をもっている。
しかし、その闇を見たとき、見せられたとき
己の胸に手をあて、内省する人間には・・・
闇の馬は、ただ美しく静かな置物であるのではないか、と考えました。
こんな馬、会う人は会うのかも・・・・・。
いやな人・・・・どうなのでしょうね。仮面にまどわされないようにしたいものですね。
自分も闇の馬に触れても平気であるよう、努力したいです。
>reomaさん
闇に育つまでに、澱の段階があるのですよ~。
そこをきちんと見て、その澱が無害なのか、闇に育つものなのか、見据えていこうと思っています。
>あっこさん
うんうん、そういうこともありますね。
ん~、何かあったのかしら?
私が触ったら、どうなるのか、ちょっと試してみたいです。
本当に人が言うほど、私は悪い奴なのかしら?ですw
それを正視できるのは・・・・
20年に1度ぐらいでいいなw
本当にそういう馬がいればいいのに。
でもそうしたら
イヤなやつだと思ってた人が
案外いい人だったりして。
何はなくとも心は耕し続けたいな。
と思いましたのです。
全ての人向けの回答はないので、理に乗っ取って合わせた答えを返していたのです。
>くーちゃん
お疲れ様~。またね~