Nicotto Town


YUKIEのきまぐれ日和


エレベータークリスマス

 デパートは、クリスマス模様にデコレートされている。これも、今日で見納め。明日からはお正月の飾り付けになるだろう。
 1人でクリスマスのデコレートを見るのは、なんだかすごく虚しい。
 今年は、初めて1人でクリスマスを過ごすことになった。帰省するのは明後日だし、友達はみんな都合が合わなかった。
 
大学に入って、地元を離れてから、もう1人きりには慣れたと思っていた。だけど、この時ばかりは、寂しさを感じた。

 
KAGAYAさんという画家の展覧会を見てから、クリスマスのための買い物をした。どうせお正月に帰省した時にお金が入るし、まだ結構残っていたから、ふんぱつした。
 小さなツリー、天使と雪だるまの人形の入ったアロマジェリーキャンドル、アップルサイダー、マドレーヌ5種類を2個ずつ。ケーキを買おうかとも思ったが、マドレーヌほうが好きだし、新しい味が出ていたので、そっちに目がついた。あとは、1階にあるケンタッキーで、ポテトとチキンを買おう。


 
エレベーターの前へ行った。
 そこに、男の人も待っていた。背は高めで、顔は結構優しそうな感じ。同じ年くらいに見える。左手にギターケースを持っている。デパートと駅をつなぐ渡り廊下や駅の周辺には、ストリートミュージシャンたちがよくいる。多分、この人もその1人だろう。

(チーン)

 エレベーターが来たので乗った。さっきの人も乗ってきた。乗っているのは私たち二人だけだ。
 と、動き出したと思った次の瞬間だった。

(ガッタン!)
「わっ!」
「な、なんだ!?」
 
突然、電気が消え、エレベーターが止まってしまった!中が真っ暗になってしまってよく見えない。
(ボッ)
 
さっきの人がライターをつけてくれた。
「少しは見えますか?」
「はい、なんとか。」
「けれど、残り少ないなあ・・・・・・。あんまりもたないかも。」
「あ、じゃあ、私が買ったジェリーキャンドルにその火つけてください。」
 
キャンドルの灯りを頼りにボタンを探した。けれど、開閉ボタンも、非常用のスイッチも利かなかった。
 どうやら完全に故障してしまったようだ。
「ここで助け待つしかないですね。」
「そうですね。」


 
それか私たちはしゃべることなく沈黙。
 こんな空気なんか嫌だな。このまま黙っているのもな~。でも、話しかけたら不審に思われるかなぁ・・・・・・。
 よ、よし!ここは勇気を出して。
「あ、あの、ギター持ってますけど、この辺でストリートライブとかやっているんですか?」
「ああ、はい。今日も渡り廊下でやってましたよ。」
「そうなんですか。あれ?でもさっき6階にいましたよね?渡り廊下は2階じゃあ。」
「さっきKAGAYAさんの展覧会見てきたんで。」
「ああ、私も見ましたよ。KAGAYAさんの絵、大好きなんですよ。」
「俺も好きですよ」


 
それから会話が弾んできた。自分の学校、出身地、サークルなど、かなり突っ込んだ話題も出た。
 キャンドルのほのかな灯りが暗い中で光っていて綺麗だ。和やかから、少しロマンチックなムードになっている気も・・・・・・って、何考えてんの私ってば!

(グゥ~)
 
ん?なんか音がした?
「あっ、す、すんません!」
「い、いえ。」
「いや~、金がなくてあんまり食ってなくて・・・・・・。」
 
おなかすいていたのか。
「あの、よかったらマドレーヌ食べますか?」
「え?そんな悪いですよ。せっかく買ったのに。」
「いいですよ。どうせ1人で食べるつもりでしたし、いっぱいあるんで。」
「あ~、じゃあ、お言葉に甘えて。」
 
袋からマドレーヌを取り出た。
 プレーン、チョコレート、抹茶、パンプキン、バナナの5種類。
 彼は、プレーンと抹茶を選んだ。
 私も一緒に食べることにした。
「あ、うまい☆ここのマドレーヌ食ったことなかったんですよ。今度仕送りの金入ったから買おうかな。」
「お勧めですよ、ここのマドレーヌ。」

 なんか楽しいなぁ。このままもうちょっとだけ閉じ込められていても・・・・・・ってコラコラ!もう~、ほんっとにさっきから何考えてんのよ!

「ありがとうございます。」
「いえいえ。」


 
閉じ込められてから約1時間後に、私たちは出ることができた。
 正直言うと、もう少しこの人と話していたいって気持ちもあるんだけど、そんな事言える訳がない。
「じゃあ、お疲れ様でした。」
「あ、待ってください。」
「はい?」
「よかったら、俺のギター演奏聴いていってもらえませんか?さっきのマドレーヌのお礼に、あなたのためにライブやります。」
「いいんですか?」

 私たちは渡り廊下へ移動した。と、窓を見ると、雪が降っていて、いつの間にか外は真っ白になっていた。ホワイトクリスマスだ。
「あ、名前言ってませんでしたね。私、雪村真理亜です。」
「俺は、星野聖夜です。じゃあ、ライブを始めます。」
 バラード調のきれいな歌とギターがその場に響き渡った。





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