■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値(31)
- カテゴリ:その他
- 2009/12/22 00:05:18
■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値|五 (1)
五
外形上の自然主義が抒情的主觀を斥け情緒的主観を斥けるのは、此等のものが皆自然の眞を打破し若しくは蔽遮するからだといふ。さらば自然の眞とは何であるか。自然主義の内容論目的論は此所から始まる。
曰はく社會問題、曰はく科學、曰はく現實、此等を以て事實が示す自然主義の内容と假定するときは、其の底に共通する意義は何であらうか。蓋し社會問題といひ個人問題といふ如きものを文藝に入れたのは、明かに當時の道徳界の潮流に動かされたのである。たとへばイブセン。ハウプトマン。ズーダーマン等の作に其の適例を見る。又科學の眞を傳へ、現實を本とし、作者の實驗を語り、普通人の言葉を取次ぐを本旨としたゾラの如きは明かに當時の學問界の風潮に動かされたものである。(コントは其の所謂積極知として科學的知識を最高價のものとした。畢竟我等が五官で實證し得るもの程確實な知識は無いといふ思想で、此等がゾラなどを動かして、極端にまで行かしめたと稱せられる)。
--------------------
*註1:抒情的・情緒的
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg
*註2:蔽遮する
「遮」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:内容論・自然主義の内容
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註4:此所から・所謂積極知
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註5:社會問題
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。
*註6:共通する意義
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:何であらうか
原本では「何てあらうか」となっていたが、「て」は「で」の誤植と思われるので改めた。
*註8:文藝に入れた
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註9:道徳界
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg
*註10:適例を見る
「適」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:作者の實驗
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註12:普通人の言葉
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註13:畢竟
「竟」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_tsuini.jpg
*註14:實證し得るもの程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg
--------------------
■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html