以前書いた物語「いんこな日々」サイドストーリー
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/19 01:08:25
「シークレット・クリスマス」-その1-
「どうしてそんなことが出来たわけ?今まで、あんたどうしていたの?私のからだに入っていたの?」
「なんで、人間のからだなんかに入らなきゃならないの?」
立て続けの質問に、いんこが答える。
「私がどこにいたかは秘密だよ」
そう言うとちょっと間を置いて いんこはキラキラした瞳で私を見つめた。
「今日は、クリスマスイブだから。クリスマスプレゼントって思えばいいんじゃないの?」
店頭から見えるイルミネーションがワクワク感をますます盛り上げる。
私は朝からドキドキしていた。だって、今日はクリスマス・イブだから!飼われいんこには年に一度クリスマス・イブの夜からクリスマスの朝まで、かごから出て自由に飛ぶことができる素晴らしいプレゼントが待っている。正確には、飛ぶことができるのは魂だ。それは野鳥ではない、飼われ鳥へのクリスマスプレゼント。私は、売れ残りいんこだけど飼われいんことして生を受けたので、資格はあるのだ。夜、イルミネーションにまぎれて私達は自らの魂を発光させながら大空を飛びまわる。魂だから寒さを感じることはない。外敵に襲われる心配もいらない。あるのは大空を飛び回る自由と、同じ境遇の飼われいんこと出会い、語らう楽しみのみ。一年ぶりに会う友と何を語ろうか?
クリスマスの一夜限りの切ない恋物語は、いんこ界にはそこらじゅうに腐るほどころがってる話だ。一目ぼれして恋に落ちてそしてクリスマスの朝名残惜しく翌年の約束をして別れるクリスマス夫婦(めおと)。―と書くとすんげーロマンティックにきこえるが、前の年の約束なんぞすっかり忘れ、お互いに、前年の相棒の目の前で新しい相手を見つけ去っていくなんて、よくある話だ。魂になって自由に飛べるのに、案外毎年同じような場所ですごしてしまうってのも興味深いものがある。
すれ違いざま
「よう、元気だった?」
「まぁ、そちらこそ。ではでは~~」
と軽く声までかけあったりなんかして、クリスマスの恋は遊びと言い切る軽いのりが多いのは、セキセイやオカメである。一年も待ってられっかよ!な傾向が強いのだ。
対して、一年に一度の逢瀬に全精力をつぎ込むのが、コザクラやボタンいんこだ。なもんだから、クリスマスが過ぎて飼い主のところへ戻っても、心は愛しのクリスマスのあの方にぶっ飛んだままなので、飼い主がお見合い用にどんないんこ連れてきても、うざいだけ。「なんでこんなに好みにうるさいのかね?自分だってたいしたことないのに多少は妥協せーよ」
と飼い主バカにすら言わせてしまうほど、かたくなないんこにみえてしまったりするわけだ。でも、かれらは、心に決めた相手に操をたて一途に愛を貫いているだけなのだ。だからいんこ側からすれば、いらぬおせっかいをやくしつこい飼い主というレッテルをべったり貼ってる可能性も大ありだ。ラブバード飼いの人で、身に覚えがあるなら、クリスマス夫婦(めおと)一途バージョンを疑ってみるべきだ。そして確信したら、見合いは…まぁあきらめろ。
さて他いんこより自分のことを考えなくちゃ。
私のワクワクは最高潮に達しようとしていた。なんたって一年に一度のお楽しみ。売れ残ってるいんこゆえ、なおさらだ。まだクリスマスカップルの相手は見つかったことないけど、いろんないんこと話するだけで楽しいし、相手いなくても一羽で夜空を飛び回るだけでも充分楽しい。
閉店時間までついに、1時間をきった。そろそろ魂がぴょこぴょこ幽体離脱の準備にとりかかっていた。もうちょっとで、空に舞い上がれるのだ!私は嬉しさでいっぱいだった。売れ残ってる悲しみも、私より遅くに入荷したヒナがどんどん先に買われていくつらさも今日はどーでもよかった。ただ楽しかった。
そこに楽しみな私の気分をぶち壊すが如く登場したのが、人間の彼女だった。ドヨドヨンとしたオーラを背負って、悲劇の主人公にでもなったつもりらしい。そして彼女は言った。
「おまえも クリスマスなのに寂しそうだねぇ」
やーね、私寂しそうになんかしてないわよっ!ムッとして、猛然と頭を脚でカキカキして、猛烈にフケを飛び散らせてやった。あたりの空気がもうもうと煙くなる。彼女がセキセイを買いにここに来たわけでないのは、すぐにピンときたから、彼女がどう思おうと知ったこっちゃない。媚売る必要なし。
しかし彼女は更に私を怒りのるつぼに叩き落した。
(つづく)
クリスマスに飼われいんこだけに与えられた、不思議でステキなプレゼント…(^^)
今年のクリスマスにもたくさんの魂が飛び回って楽しむんでしょうね♪
続きが気になります!!楽しみにしてますね✿
なんかいいねぇ
自分で作るなんてすごい
作家さん??