■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値(27)
- カテゴリ:その他
- 2009/12/18 00:19:25
■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値|三 (9)
例へば夫の『萬葉』の行倒れを哀む歌に「家ならば、妹が手まかん、草枕、旅に臥(こや)せる此旅人(たびと)あはれ」とある、末句を哀れむといふ意に取れば、主觀の情が其のまゝ點綴せられ且つ節奏に乗つて流れ出たのである。其の他抒情的な詩歌乃至散文中の抒情句等が皆同じ例である。此等は即ち一種特殊な工風に屬するもので、藝術中の主觀方面といふべく、主觀的と抒情的とは此の意味で同義に見られる。之れを抒情的又は自叙的主觀と名づけて置く。
抒情的主觀に對して情緒的主觀ともいふべきものがある。第三段境の情緒を特に知的方面から引き離して、是れを主として描き出さうとする。又は是れを自由に濃厚ならしめやうとする。茲では旅人不憫といふ作者の抒情でなく、旅人みづからの悲哀孤獨の情緒ではあるが、それを更に旅人から取り離して作者が自由に取扱はうとする。夫のロマンチシズムの中にある主觀的傾向は多く是れである。情緒主義などといふものと連なる。
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*註1:例へば夫の『萬葉』の
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:臥(こや)せる此旅人(たびと)
「こや」は「臥」のルビ、「たびと」は「旅人」のルビ。
*註3:主觀の情・抒情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註4:節奏に乗つて
「節」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_hushi.jpg
*註5:詩歌乃至散文中の
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註6:情緒
「情」の正字体。「月」は「円」。
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg
*註7:又は自叙的主觀・又は是れを
「又」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mata.jpg
*註8:第三段境
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg
*註9:茲では旅人不憫
「茲」の俗字体か(?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koko.jpg
*註10:作者の抒情・作者が自由に
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註11:それを更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg
*註12:連なる
「連」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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