Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(135)

 クリスが目を覚ましたのは、日が暮れてだいぶ経ってからだった。
 「……どれくらい、寝てたかな?」
 目をこすりながらクリスが言う。
 「えーと…三時間くらい、かな」
 「…そんなに?一時間で起こしてくれればいいのに」
 「いろいろあってね。感動の薄い親子の対面、とか、「癒しの手」の実演とか」
 「……そうだ、陛下は?」
 ぼんやりしていた頭が、一気に覚めたような顔をする。
 「何とか持ち直しているよ。ベッドから出られるくらいには」
 「あまり…状況がよさそうに聞こえないんだけど」
 「…詳しい事は、あとで。一刻を争う、という状況ではないから。ところで、空腹なはずだと思うんだけど」
 暖炉の上で保温している鍋の方を指し示す。中身はシチューだが…
 「…空腹は…空腹なんだけど、そういう気がかりなこと言われたら、咽喉を通らないじゃないかと思う」
 「食べ終わったら、だいたいの状況は教える。詳しい事が知りたかったら、着替えてから、だな」
 「着替え…?」
 半身を起こしながら怪訝そうな声でそう言う。自分が着ている物の状態を目にして、
 「…ああ、そういえば、アレクが何かしたんだっけ」
 などとのたまう。ボタンをはずしたのは、クリス自身だが、その事は都合良く忘れてしまっているのだろうか?
 「………それもある」
 とりあえず、衿元のボタンを留めてやる。服の前をはだけたまま食事するのは、いろいろと危険だ。
 「だが、クリスが回復次第、詳しい説明を聞きたい、と言っている。祖母君が。……寝てたせいで服が皺くちゃになってる」
 「祖母なら、服の皺くらい気にしないと思うけど」
 「服の皺は気にしなくても、服が破けてたら気にするだろう。場所が場所だし」
 鍋の中をひと混ぜして、シチューを椀に盛る。同じく暖炉の上で保温されているパンと一緒にトレイに載せて、ベッドまで運ぶ。
 「…んー?食器が二つあるのは……アレクの分?」
 クリスがトレイの上から椀を取って、怪訝そうに言う。シチューが熱いので、ふうふう冷ましながら。
 「…いやか?」
 「ううん。そんなことない。…けど、どうして?」
 「何がだ?」
 「アレクは、ちゃんとした食事は、摂らなかったの?」
 「……クリスの事が心配で、咽喉を通らなかった」
 クリスの手が、匙を持ったまま中空て止まり、目を丸くしてこちらを見る。
 「…というのは冗談だが」
 「…アレク。冗談にしても、らしくない事言うから、びっくりした。お椀の方をひっくり返してたら、大変だぞ?」
 「こぼさなかったからいいだろう。それに、クリスが心配なのは、本当なんだから。今の状態が、じゃないぞ」
 「……アレクに心配かけるのは、悪いと思ってる。だけど」
 「解ってる。心配するのは、こっちの勝手だ。…それ以上何か言うと、何するかわからないぞ」
 クリスが口をつぐんで、匙で椀の中をかき混ぜる。
 自分の言葉が、場の雰囲気を悪くしているのを自覚する。
 「…悪い。食事がまずくなるな。せっかく久しぶりのふるさとの味なのに」
 「…え?」
 クリスが手にした匙を口に運ぶ。
 「…ホントだ。ここでは手に入らないと思っていたのに」
 「…何が手に入らないのか、は聞かないけど、ここにある材料だけで作ったはずだぞ。料理人は遠路はるばるだが」
 「ば…祖母が?」
 「…クリス。「ばあさま」だか「ばあちゃん」だか知らないが、わざわざ言い直す必要はないんだぞ?少なくとも、俺は気にしない」
 「アレクには…そういう失言をやらかしそうな対象がいないし…いたとしても、これまでにそういう訓練をする場がいっぱいあったから、解らないんだ。…私が森を出て最初に思い知ったのはね、「頭に浮かんだ事をそのまま口に出すな」なんだよ」
 「それは気の毒に。……もしかして、最初の頃、単語しか口にしなかったのは、そのせい?」
 「…たぶんね」
 「……今も?」
 「相手に合わせて言い回しを変えるのは、もう、慣れた。…だから、今更、直せない」
 「…だったら、今直せ、とは言わない。…こんな時に、クリスの機嫌を損ねたくないしな」
 クリスが何か言いたげに目を上げ、…そのまま手元に目を落とす。

#日記広場:自作小説

アバター
2009/12/16 22:09
お邪魔します<(_ _)>

 頭に思い浮かんだことを
 そのまま口に出すな…
 ずっしりきます・・・^^;



カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.