Nicotto Town



三つ子の魂百までも①

何故、わたしってこうなのだろう。
そんな疑問が湧いて、深く考えたことがありました。
いろんな記憶を手繰り寄せ、分析をしたのです。

父と母と兄と四人家族、わたしは末っ子でした。
以前のブログでも書いたのですが、父は母を殴りました。
ドメスティックです。おまけに働きませんでした。
飲む、打つ、買う、そんなことをしてきた人です。
おかげで暮らしはいつも困窮していました。

わたしの役目は父の暴力を止めることでした。
それがいつ頃からなのか、曖昧なままでした。

わたしは父を止めることができたんです。
今から考えると儀式のようでした。
怖れを知らぬ気迫が、幼いながらありました。
父がわたしを殴ろうとしても、その拳を振りおろすことがなかったのは
わたしが小さかったからなのか、わたしに何かあったのか
それは分かりません。

ただ、本当にイザとなると、自分でも自分に感心するくらい
度胸があるのです。
火事場の馬鹿力、というやつですね。

父を止めるだけでなく、改心させて、お酒を辞めさせ、働かせようとまで
考えていたふしがあります。

いつも全身全霊で父に抵抗し、抗議していました。
諦めることなく、毎回、挑むように、父の暴力を止め説教するのです。
怒鳴り散らされて終わったり、時には黙り込むこともありました。

兄は早くに諦めていました。
母はわたしを待っていました。
本当は父も待っていたのかもしれません。

一番小さなわたしが、一家の長をやろうと必死になっていたのです。
なぜ、そうなったのか
物事には原因があるはずです。

辿りついた記憶は
三歳、四歳前でしょうか。

酔った父が母と揉めて、隠し持っていた小刀を出してきました。
本当に小さかった兄とわたしは、怖くて泣いて、父の足にすがるだけです。
何かの拍子に小刀が母の額に当たり、血が見えました。
その赤さに、わたしはびっくりして、ぴょんと飛び上がり、裸足のままに
家から飛び出していました。

なんとかしなくてはいけない。
いつも仲裁に入ってくれるお隣におじさんの顔が浮かびました。
ダメだ。おじさんではダメだ。
わたしは駆け出しました。
 
母に手を引かれ交番の前を通った時
「何かあったらここに来るんやで」
と言いました。

迷子になった時のことを考えてのことでしょう。

あれはどこだっけ。
わたしは本能的に走りだしました。

どうやって辿りついたのか記憶にありません。
交番の前に来ていました。
でも、言葉が出ません。
もじもじして立っていると
一人お巡りさんがわたしに気付き
「どないしたんや。迷子になったんか」と訊いてくれました。
わたしは首を振ります
別のお巡りさんが「この子、裸足やで」
と、わたしの前に屈みこんでくれました。
「お父ちゃんと、おかあちゃん、喧嘩してるんか」
大きく頷きました。
「よッしゃ、行こう」
と頷いてくれました。

ところが、帰り道が分からず、足取りは探り探りに
なってしまいます。
「お嬢ちゃん、えらい、遠いところから来たんやな」
と後ろから声がかかりました。

家では、飛び出して行ったわたしの行方が分からず、
父も母も兄も茫然と座り込んでいました。
そこに、小さな娘が、屈強な警官を二人連れて帰ってきたのです。
三人は唖然としていました。

タオルで額を押さえていた母は病院へ
父は小刀を取りあげられ、説教され、神妙になっていました。
「賢い女の子やないか。小さい子にこんな思いさせたらあかん」

すべては丸く収まりました。
母の額の怪我も、少しだけ縫う軽いものでした。
「交番までよう、ひとりでいけたなぁ」
母はそう言って頭を撫でてくれました。

解決不可能に思えた惨事を
わたしが解決した。
みんな褒めてくれた。
父も大人しくなった。

三歳の幼い頭にどんな影響をもたらすのでしょうか。
自分の力を信じてしまいました。
家族を守れると。

これで役割は決まりました。
わたしは猛然と暴力を振るう父と母の間に
割って入るようになりました。

でも、幼い子には負担です。
夫婦喧嘩が終わり、小康状態を迎えると、わたしは熱を出して寝込みました。

そんな中で思春期を迎えました。
父は変わりませんでした。

父への苛立ちと怒りが募っていきます。
父は反抗するわたしに、一度だけ試しに頬を打ったのです。

カッと頭に血が昇りました。
二発目は殴らせない気迫で睨みつけました。

「おまえなんかいらん子やった」
父は苦々しく口走りました。
わたしは婚外子の二人目の子で、父はわたしの産みの母に
堕せと命じていたのです。
そんなことも自然と知ってしまう環境だったのです。

そうきたか。
わたしは内心思い
「好きで生まれてきたわけじゃない。
子どもは親を選べない。わたしは絶対に
わたしの子どもには、こんな思いはさせない」
と言い放ちました。

父の顔が歪みました。
傷ついたのです。

わたしは振り返りもせず、父を背に歩いて行き、角をまがったとたん
涙があふれました。

このまま父といたら、わたしは本当にダメになる
強く感じた瞬間でした。
わたしはもっと傷ついていたのです。









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