■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値(23)
- カテゴリ:その他
- 2009/12/14 00:16:10
■近代文藝之研究|研究|自然主義の價値|三 (5)
それが第三段になると審美的同情になる。即ち他的とも稱すべく、全く我れを離れて先方と同じ情が我れに起こる。妻子もありながら零落して到頭路傍の行倒れとなつた。當人の心の中は無限の悲哀であらうと普通に察せられる。此の悲哀が傍觀してゐる我等の胸に迫る。此の時我れと行倒れの人とは一になつて、一つの情で結合せられて了つてゐる。幾分か先方の悲哀を想ひ得て、氣の毒だ救つてやりたいと思つてゐる間は、まだ我れと他と一になつて居ない。第三段の情になると、我れは全くさもあらうと想定する先方の情そのものになり切る。此に至つて主客の兩觀は溶けて意識の一燒点に合體する。我れの情で向ふの物を生かす。向ふからは物が來、我れからは情が往つて、ぴたりと行き逢つて一つになる。之れを美意識の本來と名づけてよいのであらう。
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*註1:それが第三段になると
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:審美的同情・先方と同じ情・一つの情で・第三段の情・先方の情そのもの・我れの情・情が往つて
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註3:全く我れを離れて・我れは全く
「全」の正字体。
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*註4:我れに起こる
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註5:普通に察せられる
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註6:胸に迫る
「迫」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:幾分か先方の
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註8:意識の一燒点に・美意識の本來
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
*註9:ぴたりと行き逢つて
「逢」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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