Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【おでかけ】(8)

 少女が言葉を失っている間に、青年は少女の指先を丹念に舐め、あまつさえ、口に含みまでした。
「あの……で、殿下?」
 指先に感じる舌と歯と唇の感触に顔を赤くして、少女が消え入りそうな声を出す。
「そういった行為は、こんなまだ陽の高いうちからするようなものでは…じゃなくて、えーと、私のような見かけの者に対して行うと、ケダモノ呼ばわりされ…でもなくて、えーと…」
 少女がうろたえて言い淀む様子を見て、青年がにやりと笑う。
「そうか。こうすれば君はうろたえるのか。…初めて見たような気がするぞ、うろたえるところ」
「あの…お願いですから、手を放してください……」
 目を伏せながら、周囲を憚って、消え入りそうな声で、少女が言う。店が混む時間帯は過ぎているので、他の客はいないが、店主の目がある。
「…中身まで、見かけどおりではない、というのは解っている。…だから、せめてもう少し見た目も成長してもらいたいものだな」
 青年が手の力を緩めるが、自分からは離そうとはしない。
「…無茶言わないでください」
「では、やはりこうして時々栄養補給に連れ出した方がいいのかな?」
「………」
 少女が困惑の表情を浮かべる。
 街に連れ出されるのは、楽しい、と思う。けれどこうやって困らされるのは…
「うーん…下心なんか無いつもりだが?」
 さしあたりは、と青年が心の中で付け加える。
 将来が楽しみな美少女ではある。だが、その「将来」は自分の目の前で至るのだろうか?今のままでは、幼いまま、自分の前からいなくなってしまうのではなかろうか。
 蕾の内に摘んでしまおう、とまでは思わないが、…知らないところで咲いて、誰かに摘まれてしまうかもしれない、と思うと、「残念」以上の黒い感情を胸の底に感じる。
「…でも…その度にこんな事をされるようでは、困ります」
「こんな事、って?」
 青年がからかうような顔で訊ねる。
「…その…私の指を…舐める、とか」
「舐める以外なら、いいのか?」
「…何をお考えかは判りませんが、できればそれ以外、も慎んでください」
「…わかった。親が子供を連れて歩くような心積もりで接するよう、心がけよう」
 そう言って青年が少女の手を放す。
 自分の手を取り返した少女は、それを自分の胸元に強く抱き寄せ、上目遣いで青年の方を見上げた。
 王族男性に対する「世間の評判」の意味が、ようやく解った、と思う。安全な距離で接する限りは、人好きのする、多少顔立ちの整った青年でしかないのに…
 手を掴まれた時、一緒に心臓までわしづかみにされたかと思った。力を入れて振りほどこうと思えばできそうなのに、それができなかった。指に触れる唇の感触に、体の芯がとろけそうになった。
 ……それともこれは、自分がこの青年に「好意以上」のものを抱いているせいなのか?
「…親子、ほどは年が離れていないと思いますが?」
「だから…そう言われたくなければ、もう少し大きくならないと、な」
 そう言って、青年が少女の頭に手を置く。
「だったら、頭に手を載せるのはお控え願います。……背が伸びなくなるような気がします」
「そりゃ悪かった。…食べ終わったなら、そろそろ出ようか?お土産にするおやつは買い足した方がよさそうだな」
 いきなりのコドモ扱いだ。……だが、その前の行動も、傍から見たら、コドモ扱いしているように見えなくはなかったか?目付きがコドモに対するものではなかったが。
 少女は胸の中で「この悪党」とつぶやいたが、口に出したのは違う言葉だった。
「…何かお勧めはありますか?」
 そう言ってすり寄ってくる少女の唇の端に付いたソースを指先で拭ってやりながら、青年は「この小悪魔め」と心の中でつぶやいた。
「…それはどんな店がまだ出ているかによるな。時間があるようなら、もう一周してみるか?」
「財布の方は、まだ大丈夫ですか?」
「任せろ、と言っただろう?ここをどこだと思ってる?」
「……王都、ですね。殿下のご実家のある」


その日、市に出ていた食料品店は大いに潤い、王都警備隊長の机の上には、検挙者の報告書が山積みになった。
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……やれやれ。やっと終わりました。
こんなに長くなる予定ではなかったのに。
おかげて、考えていた他のペアの話は書かずに済みましたが。

#日記広場:自作小説

アバター
2009/12/12 22:20
いったい、彼女はどのくらいの量の食べ物をたいらげたのだか^^

楽しませて頂きました♪
アバター
2009/12/11 22:21
このままお持ち帰りかと思いました-y( ´Д`)。oO○
アバター
2009/12/11 21:19
殿下なにをなさるのですか、ってかんじですね。恋愛にはなりませんでしたね。
アバター
2009/12/11 16:30
お疲れ様でした^^
他のペアの話はまた後日でしょうか?
なにかの機会にまたお披露目してくださいね



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