Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【おでかけ】(7)

 店を出て、ゆっくり歩きながら青年が少女に話しかける。
「それにしても、君の鼻は大したもんだなあ。今までのところハズレの店に当たってない」
「…失敗をごまかしてる匂いのしない所を選んでるだけです。傷んだ野菜や肉の臭いとか、物の焦げる臭いとか。…ここの市では、明らかにそんな匂いをさせている店はありませんが」
「食べ物屋台はちゃんとした宿屋や食堂からの出店が多いからねえ。そういう店は信用にかかわるから、そんな物は出さない」
「ふうん…勉強になります」
「なに?将来そういう店を開く計画でも?」
「そういう訳では…ただ、自分があまり詳しくない分野の情報は、どんな些細な事でも、いつ役立つ日が来るかわからないから、って、両親が」
 ふうん、と気のない相槌を打った青年が露店の商品を眺めていると、傍らで何かが砕けるくぐもった音がした。既に何度も聞いた音だ。
「まだ食べ足りなかった?」
「……いえ、そういう訳では。店を出るときは、確かにお腹いっぱいな気がしたんですけど」
 噛み砕いた豆菓子を嚥下しながら、恥ずかしそうな顔で少女が答える。
 ……少女の後方、五メートルほどのところでは、店先で客の荷物をかっぱらおうとした男が、店主に見つかって取り押えられていた。
「まあいいか。…食欲旺盛なのは結構な事だし。…せめて身長だけでも年相応に育ってくれないと、連れて歩くだけだも妙な目で見られるもんなあ…」
 青年が密かにこぼすと、少女が怪訝そうな表情で見上げる。
「どうかなさいましたか?」
「…いや、なんでもない。…そうだ、食事の他にお祝いの品」
「殿下自らが王都をご案内くださる、というだけで十分すぎるほどです」
 青年の言葉を遮った少女が一旦言葉を切り、いたずらっぽい表情を浮かべた。
「……それとも、殿下がお祝いしてもらいたい、とか?」
 青年が虚を憑かれた表情になった。
「それは……考えた事もなかったな。前例もないし。……卒業祝いならともかく」
「前例って…そんな大げさなことなんですか?」
「…昔、卒業するまで二十年以上かかったのがいてね、ようやく卒業できたときには、それはそれは盛大なお祝いをしたんだそうだ」
「にじゅう……」
 少女が絶句して足が止まる。
 普通、五年通ってみてものになりそうでなければ、学院を去るものだが。少なくとも、少女が聞いた限りでは。
「それは、進級を祝う、どころではありませんね」
 通路の真ん中で立ち止まるのは通行の邪魔になるので、青年が少女を通路の端へ寄せる。すると、ちょうどそこは食べ物屋台の前だったので、条件反射のように少女が店主と会話を交わし、またその流れで青年が代金を支払う。
「さすがに在籍十年を超えると、いろいろと公務が発生するんで、籍だけ置いて、身柄はうちの方に戻し、教師が派遣されるそうだ。つまり、これつけて生まれてきたからには、何としてでも使えるようにならないと一人前とは見做されない、ってわけだ」
 青年が少女の目の前に手のひらを開いて見せる。代金を支払うときにはなかった金色の丸い痣のようなものがそこにあった。
「それは…なんというか、大変そうな…」
「そういう訳なので、下手すると、君の方が先に卒業する羽目になるかもな。さすがにその時、卒業祝いを贈ろうって気になるかどうかは保証できないな」
「……そんなに、危ないんですか?卒業」
「実技が壊滅的でね。どうも勝手が解らなくて」
「…こんな芸当ができるんだから」
 少女が青年の手のひらに指先でそっと触れる。
「勝手が解らない、とは思えませんが」
 少女は珍しそうに青年の手のひらにしばらく指を滑らせていたが、突然はっとしたように手を引っ込めようとした。が、逆に掴まれてしまった。
「…すみません、許しも得ずに」
「小さい手、だな」
 青年が少女の手を掴んだままつぶやく。
「…はい?」
「武骨な武器など持たずとも、身が守れるように、あんな力があるのかな?…あれには驚いたぞ」
「あれは…慣れない場所なのと、武器持った人が相手だったので、加減ができなかったんです。獣が相手で、身を守るだけが目的なら、もう少し加減します」
「人は、往生際が悪いからな」
 青年が、少女の手を両の手のひらの間で弄ぶ。もうその手のひらは元に戻っている。
「…だがな、少しはこっちにも見せ場を作ってくれても良かったんじゃないか?自分よりも小さい女の子に守られただなんて、他人に知られたら…」
「最初の人たちはご自分で片付けられたじゃありませんか。それに…後始末もお任せしてしまって。申し訳なく思っております。それに…」
 少女が言葉を切ったのは、青年が少女の手をおもむろに自らの口元に運んだからだった。

#日記広場:自作小説

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2009/12/11 20:13
まぷこにゃんが書いたお話なの?

Σ(☉ω☉) すげーーーー
重いから全部読むの大変だけど
今度全部よみたーい



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