【おでかけ】(4)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/12/07 09:07:01
男たちのうち三人は、細身の剣を抜いて青年の方へ向かい、残る一人が短剣を手に少女の方へ走り寄ってくる。青年が上着に仕込んだ刃物を手に取るよりも先に、少女の唇が歌うように一連の命令を紡いだ。その場にいる人間でその言葉を理解できる者はいなかったが、理解できる「存在」はいた。それらの存在たちは、それぞれ自分にできるやり方で命令を実行した。
男たちを取り巻くつむじ風が巻き起こり、足元の小石を巻き上げて男たちの体に激しくぶつかる。それが立ち去ると、運河の方から風に乗って細かいが鋭い氷の粒が男たちにぶつかり、彼らの衣服や肌を切り裂く。最後に、見えない何かが男たちの上にのしかかり、彼らを押しつぶす。最後の一人が立っていられなくなったところで、「存在」たちの攻撃は終了した。
だが、第二弾にはもう一人いて、男たちの様子を窺っているのを、少女は知っていた。その一人は、さっき探知した場所から動かなかったが、最後の一人が倒れたのを見て、その場を動いた。
「ちびちゃん、追いかけて」
少女は、奥の手を繰り出す事にした。
「もし逃げるようなら、元の大きさに戻ってでもいいから、連れてきて。こっちに来るようなら、死なない程度に御馳走させてもらって」
少女が身に帯びている小さなメダルから光の矢が飛び出して、見えない場所にいる敵を追った。
最も信頼する存在に後始末を命じた少女は、へなへなとその場にくずおれた。
完全に地面に倒れる寸前に、青年が駆け寄ってきて、少女を抱きとめた。
「随分気前よく力を振舞ってやったものだな」
青年に支えられて、体勢を立て直した少女が、揶揄とも称賛とも取れる青年の言葉に応える。
「…ちょっと度を越したのは否めませんが…場所もあまり私向きではありませんでした」
なので加減ができなくて、と言い訳のように口籠る。
「向き不向きがあるんだ?」
「…向き不向き、というか…魔法を使い易い場所、というのはあります。私にとって、ですが。…殿下にはありませんか?」
「んー…残念ながら、あまりないなあ。見てのとおり、魔法使うより、手を出す方が得意だしね」
「せっかく強大な幻獣が憑いてらっしゃいますのに?」
「それこそ「向いていない」んだろうな。…だから、いまだに卒業できない」
「そんな、ご謙遜…」
その時、空の一部が陰った。かと思うと、一人の男が空から落ちてきた。このまま地面に激突したら、命が危ういので、少女が勢いを殺してやる。
「お優しい事だな」
「墜落死した死体を目の当たりにした後で、ごちそうが喉を通るほど、神経が太くありませんので」
「……なるほど」
青年が襲撃者たちの手足を拘束する、という作業に勤しんでいると、ようやく警備隊が現れた。
「遅いぞ。せめて片づけてる最中に来れないか?」
「……お手数をおかけします。ですが、今日はやけに逮捕者が多くて…」
責任者と思しき人物が申し訳なさそうに答える。他の者たちはそれぞれ散って男たちの捕縛にかかる。
「こういう日には、仕事を増やしてくれる奴が多く出るのは解りきってるだろうに」
「それはもちろん。ですが今日は、夜勤明けの者も帰れないほどの忙しさで」
「ほーお?…今日の市では、犯罪組織の競技会でも開かれているのか?」
警備隊の責任者が頭を抱えたそうな顔をした。
「殿下…御冗談でもそのような発言はお慎みください。士気にかかわります」
「冗談だと解っているなら、問題はなかろうに」
「警備隊には融通が利かないくらいの真面目な性質の奴が配属されがちなんです。そんな奴に聞かれでもしたら…」
「真に受けられでもしたら、困る、か?そういうヤツがいるんだ?」
相手が困った顔をするのを見て、青年は話題を切り替えた。
「…ところで、何か食べる物、持ってないか?補給食でいいんだが」
「食べ物なら、ちょっと歩けば手に入るでしょうに」
「そりゃそうだけど…連れがあそこでへたばっててね。もう歩けないっていうんだ」
そう言って水門前の小屋を示す。
「お連れが…?ああ、そういえば、今日は随分とお可愛らしい方を連れてらしたとか?…学院の方で?」
「ああ。そこの奴らは彼女が片付けた。おかげで一歩も動けないとさ。どこか近くに、休ませられるところはないか?座れる場所がありさえすればいいんだが。…できれば、広場の周辺で」
「注文が多いですねえ。近さからいえば、この堀割のすぐ向こうにお宅がおありでしょうに」
「……正門までどれだけあると思ってる?通用門はさらに離れてるんだぞ?」
苦い顔をする青年に向けて苦笑しながら警備隊の男は言った。
「とにかく、その方からもお話は伺わないといけませんからね。どこかをお借りすることになるでしょうね」
そう言いながら二人で小屋の方に足を向ける。
おびき出して叩きのめすのは、やりすぎですよね。たぶん。
の落ちを想像しましたが外れました/(°ё°)\
いつの間にか
長編に・・・・なっちゃってますねぇ^^。
楽しいのでまったく問題ありませんけどね♪。
続きましたね~
また読みに参ります^^