Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


以前書いた物語 いんこな日々-第8章-前編

8章 夜中の頬ずり(前編)

ある日。いつまでたっても部屋の電気が点かなかった。他のいんこにとっては まっくらな部屋ん中では寝るしかない、って感じで グーグー眠っておる気配だが 私は元人間であるから 飼い主のことが だんだん心配になってきた。
隣のいんこ達のように脳天気に寝てられない こういう時って 根っからのいんこでないことが 恨めしくなってしまう。

彼女が帰宅したのは 夜中といってもいい時間だった。ガチャガチャ鍵を開ける音 ドアの開閉の音 ゴソゴソ人の動く気配…でも その後 いつもなら点くはずの電気が点かないで そのかわり
「うぅっ ううぅっ」
と嗚咽がかすかに聞こえてきた。泣いている…。
仕事でつらいことがあったのかな?彼氏さんかお友達とケンカでもしちゃったのかな?
人間ゆえのつらさから逃れたくて いんこになりたいと願って いんこになった元人間としては、彼女の悲しさがわかる気がして なぐさめたかった、でも どうやってなぐさめればいいんだろぅ?いんこであることの無力感を感じて 切なくて もどかしくて
「きゅ~~~」
と身をよじった。すると 暗がりの中で 飼い主の嗚咽がとまり ゴソゴソと近づいてくる気配がして。
暗がりの中 むんずと掴まえられた時は 一瞬びっくりしたけど 涙の伝わった頬で頬ずりされて
「りょうちゃん りょうちゃん」
というので もう一度
「きゅ~~~~」
と切なく鳴いてみた。思うに 切なげな鳴き方っては 飼い主には 悲しみを共有してしているように きこえるものなのね。以前 自分も飼っていたからわかるけど いんこのフワフワな羽の感触は とても優しく気持ちがなごむから きっと今 彼女も少しは 気持ち落ち着いてきたかもしれない。

私に頬ずりをしながら 彼女は私を聞き手に話始めた。
新しいバイト先で 職場になかなかなじめないの、と彼女はポツリとつぶやいた。
「わからないことはきちんと質問して 早く仕事に馴染もうと思ったんだけど 一生懸命やってるのに 気がついたら 職場で孤立してたって感じなの」
と言うと彼女は 鼻をすすり上げた。
なるほどね、職場でみんなに無視されちゃ これはつらいだろう。飼い主がかわいそうで 私まで悲しくなってくるよ、ぐすん。それにしても いつもの笑顔の後ろに こんな気持ちを隠していたのか、と今更ながらわかって 驚いた。いつもニコニコしてたから 彼女にそんな悩みあるとは気付かなかった。

一旦 堰を切った彼女は 話続けた。
「何故そういう手順になるのか?とか 納得したかったんだけど そういうのって生意気に見られるのかな?指導してくれていた女の人 だんだん私のことが気に障るようになったみたいで、とうとう『言われた通りやってればいいのよ、いちいち 何故?どうして?って おりこうぶって 気に食わないのよね!そんな態度じゃ 仕事頼みにくくなるの わからないかしら』ってぶち切れて 怒鳴られちゃった」
ん?ちょっと待て。それまで飼い主の言葉に同調していたのに ブレーキがかかる。いや 飼い主がグチるのはもっともな話だ。
でも それにうなずく自分に違和感があるのだ。そのひどい指導役って 以前の私そっくりじゃん。
デジャブ…私は 背筋がもぞもぞしてきた。バイト先の新人の手際にイライラして 怒りつけていた自分を思い出したのだ。
私のバツの悪さに気付く道理のない飼い主は なおを私に訴える。気まずい…。
「結局『勝手にすれば いいじゃない』って言われちゃって。その人 職場の仕切り役みたいな感じだったから、まわりの皆 気の毒そうに私を見るんだけど 巻き込まれたくないから 知らんぷりするよね、当然だよね」
そ、そうなんだ…もしかして 私が怒った新人さん達も、私が怒った分 誰かがきっとフォローしている、って勝手に思い込んでいたけど 違ったのかな?他の人がフォローためらうくらい 私も職場で仕切り魔になっていたってこと?

飼い主の話は続いていたけれど 私は もう半分聞いていなかった(まあ 飼い主だって まさか いんこが話の内容理解しているなんて 夢にも思ってなかろうけどね)。人間だった時の自分が バイト先でどんなふうだったのか、今 初めてわかったような気がして 頭殴られたようなショックを受けていた。
店長の言葉がこだまする。
「みんな あなたのこと 怖いって」
今なら 店長の言葉の意味もわかる。いいかげん積もりに積もった結果だったのかもしれない。…こんな人間 職場にいて欲しくないよ、辞めさせた店長が正しかったんだ。
私はどんどん うなだれていった。
いんこの体型は うなだれるのに これまた もってこいなもんだから 私は うなだれるにいいだけ うなだれた。
(つづく)

アバター
2009/11/11 09:08
インコになって初めて相手の気持ちがわかるようになる
展開がすごくいいです
なかなか実際では難しいですよね相手の気持ちになって考える事
自分の気持ちだけが優先してしまて
私もここの所自分の気持ちだけが優先してしまって(´-ω-`;)ゞポリポリ
反省しないと駄目だなぁ~って思っちゃった
アバター
2009/11/09 22:16
感想コメありがとうございます。
何度か書きましたが、これは一度いんこ好きの人
が多い場所で連載しています。
今回、いんこに関心のなかった人 関心の薄い人に
多く読んでもらって その感想がやはり以前と違う
ことに興味をもって読ませていただいています。
一つの話ですが、読む人の世界観にはいりこんで そこで
書き手から離れた世界が展開しているように思います。

ほんとに勉強になります。私自身 社会経験の少ない
ちっぽけな人間だけに、社会で厳しい現実の中でがんばって
いらっしゃる方にコメントもらえることに 心から感謝
しています
アバター
2009/11/09 21:54
こんばんは!

すごく感情移入してしまいました…どちらにも。
自分のことってどうしても客観的に見られない部分がありますもんね;;
頑張れ、二人(?)とも…!!とひそかに応援してます(^^)

これからどうなっていくのか、とっても楽しみです♪
アバター
2009/11/09 21:14
深い!!実に深い!!
面白い!!

確かにそういうところってあるよなぁと思いつつ読みました
続きが気になります
アバター
2009/11/09 20:03
ここで職場での話が絡んでくるのですねー
それにしても、これはへこむ…
次の展開が楽しみです^^
アバター
2009/11/09 19:54
人間って、物理的に自分が見えないつくりになっているもんねw

インコの視線からみるっていうのは、本当に面白い^^

しかも、よくわかるわ^^
アバター
2009/11/09 14:42
足跡を辿って、訪問した所このブログが気になって一話から読みました。
そしたら今度は続きが気になるー。・゚・(ノД`)・゚・。
これから暫く通わせて頂きますw
お話書くの上手ですね^^楽しく読ませて頂きました。
アバター
2009/11/09 10:42
お話がどんどん深くなっていって、深層心理や三人称からの視点、すごい!
次も楽しみです〜〜〜♪
アバター
2009/11/09 06:55
パズルが繋がって行きますね!もっと種が蒔かれていたのかなぁって、わくわくです。



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