宝物2
- カテゴリ:人生
- 2009/01/01 04:02:40
その背中に,こんな吹きっさらしの所に置いておくのか。
と怒鳴りたかった。
男の足元で
犬は顔も上げず、ただうずくまっている。
お尻のあたりが、何か所か毛が抜け
地肌が赤くただれているように見える。
大丈夫か。
男の声に、犬は垂れた耳を少し動かし、
顔を僅かに向け、男を見た。
あなたでしたか…。
視線が弱弱しく語る。
すまないなぁ。
男はしばらく佇んでいた。
翌日は雨だった。冬の冷たい雨だ。
男は仕事が終わると、店の裏通りに急いだ。
心配したとおり
犬は濡れて、震えていた。
我慢の限界だ。
男は裏口のドアから店に入ると
あの犬を貰う、ときつい口調で言った。
昨日と同じ店員は、一瞬、驚いたように目を丸くしたが
10万です。と答えた。
病気じゃないのか。
男の声は苛立っていた。
珍しい犬なんで。
店員は肩をすくめ、意地悪く男を見返す。
男は腹が立った。が、見透かされていて交渉も手間取るだろう。
何よりも雨脚が強くなってきていた。
そこのバスタオルもつけてくれと
低い声で言い、財布からクレジットカードを取り出し
レジ横のテーブルに、叩きつけるように置いた。
タオルで犬を抱え、タクシーと交渉して自宅の犬を診てもらっている
獣医に向かった。
犬は何一つ抵抗しなかった。哀しいほど軽く、指に肋骨の感触が
しっかりと伝わるほど痩せていて、臭かった。
ああ、ひどいですね。一度も散歩させていないから
筋肉が萎えて、これは歩けるようになるか、どうかなぁ。
皮膚病も、ああ、お腹のあたりがひどいな。ろくに餌もやって
いなかったんでしょう。
できるだけのことをしましょう。
犬は入院することになった。
数日後犬を引き取りに行った。
見違えるとまではいかないが、犬は生気を取り戻していた。
男を見つけると、尻尾をパタンパタンを振った。
その日から犬は男の新しい家族になった。
妻の心配は杞憂だった。
犬は瞬く間に二匹の犬とも馴染み、
男と男の妻に従順で、素直で賢かった。
二匹の犬が悪さや喧嘩を始めると
動きこそ鈍いが、気迫で威嚇し叱りつけた。
なんて賢い子なの。
いい拾いものだったわね。
妻は犬を見て目を細めた。
男の家族にとって犬はなくてはならない存在になった。
ソファに坐って犬を見ていると
心がなごむ。
犬は男の視線に気づき、
足を引き摺りながら近寄ってくる。
後遺症は残ったが歩けるようになった。
それから、男の膝に頭を預ける。
男は犬の頭を撫でる。
知らず知らず笑みがこぼれる。
犬は満足げに瞳を閉じる。
心と心が笑い合う。
明けましておめでとうございます。
新年、本当に大切な宝物に出会えますように。
とっても素敵な小説を読ませて頂いたような感じでした♪
主人公の男の方の気持ち、わかります。。
私も一番の宝物と聞かれたら、迷わず2匹のワンコ。
(私の家族も勿論ですけど♪)
ワンコは言葉が話せないけれど、「心と心が笑い合う」という表現がピッタリです。
私の宝たち、今年一年何事もなく幸せでいてくれますように♪
黒猫手毬さん、ご家族、黒猫ちゃんのご健康とお幸せを祈っております♪
昔は宝物といえば、おもしろい形をした石ころとかカブトムシとかでした^^
今は何か探し求めているのかな~