忘却の水面
- カテゴリ:日記
- 2026/08/21 13:58:30
音のない水音だけが、永遠に反響する場所。そこには、光を吸い込むように黒く透き通った「冥府の川」が流れている。
岸辺には、生前の記憶と後悔を捨てきれない魂たちが列をなし、水際で立ちすくんでいた。しかし、彼らの濁った視線は今、川の中心を滑るように進むある一点に引き寄せられている。
ひとりの少女が、仰向けになって川を流れていく。
彼女が身に纏う白いワンピースは、冷たい水に溶け込むようにふわりと広がり、漆黒の髪は夜の帳のように水面を揺蕩っていた。陶器のように白い両手は胸の上で組まれ、そこには枯れることのない一輪の白い花が抱かれている。
この冥府を流れる川は、未練や執着が重い者ほど水底深くへと沈んでいく定めにある。もがき苦しむ魂たちを尻目に、少女はまるで微風に乗る羽毛のように、水面をただ静かに漂っていた。
彼女には、もはや痛みも悲しみもない。残した者への未練すら、とうに手放してしまったのだろう。うっすらと微笑みを浮かべているかのような横顔は、生命の終焉という残酷な事実よりも、はるかに純粋で美しかった。
閉じた目蓋の奥で、彼女はどんな夢を見ているのだろうか。
やがて少女の小さな姿は、川の行き着く先――すべてを無に還す、霧に包まれた忘却の海へとゆっくりと溶け込み、幻のように消えていった。
後には、彼女が流れた軌跡を示すような、微かな光の波紋だけが静かに揺れていた。




























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