ネクストパンデミックは必ず起こる!②
- カテゴリ:日記
- 2026/07/14 00:39:35
専門家として一線を越えざるを得なかった
2019年の暮れ、中国・武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が蔓延しているとの情報が尾身の耳にも入った。翌年2月3日には、集団感染を起こしたクルーズ船が横浜港に到着する。
「この時期、私たち専門家は三つのことを考えていました。一つは、このウイルスは無症状でも他の人に感染させること。二つ目は、すでに国内での感染が進んでいる可能性が高いこと。三つ目は長期戦になるということ。これを早く政府から国民に伝えてほしいと思いました。しかし、政府はクルーズ船の対応に奔走していて忙しかった」
乗員・乗客を船内隔離するのか、下船させるのか。緊迫した事態が国内外のメディアで連日報道された。一方で、専門家は、このままでは国内の感染が大変なことになるという危機感を募らせた。
「専門家が知っていることを国民に伝えないのは、責任放棄ですよね。でも国からは求められていない。政府からは煙たがられるかもしれないけれど、言わないと歴史の審判に耐えられないのではないかと」
2月24日、「専門家は政府から聞かれた課題に答える」という暗黙の境界線を越え、国民に向けて「今後1~2週間が瀬戸際」という独自のリスクメッセージを出す。この見解を出すことについて、専門家会議のメンバー全員が同意した。
「無症状でも感染を起こすとわれわれが公表することに、当初政府はちょっと後ろ向きでした。しかしあの時、パニックを起こすと困るから言わなかったとなれば、おそらく国民は政府や専門家に不信感を抱くでしょう。事実がわかれば対処ができる。日本の国民は隠されるよりも真実を知りたいという気持ちが強いと思いました」
この日を境に専門家はコロナ対策の前面に出ることになり、葛藤の日々が始まる。
政府と意見が衝突した時は。
「アベノマスクには、専門家はちょっと困りました。相談を受けていれば推奨しませんでしたね。学校閉鎖(2020年2月27日、安倍晋三首相がすべての小中学校、高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを公表)も、相談があれば別の選択肢を話したと思います。たぶん政権がリーダーシップを発揮したいという思いがあったのでしょう」
政府と専門家の意見が一致せず、提言が受け入れられない時もあった。
「政府は外交や経済にも重点を置きます。意見が違うのはあり得ることで、専門家の意見を採用しない場合があって然るべきです。でも実は、100以上の提言のほとんどを採用してくれました。採用しなかった場合にその説明が不十分だったことがあり、それが今後の課題です」
意見が衝突した一例は、2021年夏に開催した東京五輪だ。2021年6月、「今の状況で開催することは普通はない」という尾身の発言が波紋を呼んだ。国会での質問に対する回答の一部が広まった。
「みなさんが私の立場ならどう思うでしょうか。国際的にお金もかかっていて、スポーツ選手は何年も努力している。日本の威信がかかっている。しかし、専門家として考えを言わないというのはどうなのか、われわれはかなり長い時間をかけて考えました。最終的に、やるなら無観客がいいと言った。当時はデルタ株が出てきていて、そこに夏休み、お盆が重なる。このままだとオリンピック開催の有無にかかわらず、開催日あたりには緊急事態宣言を出さなくてはならないくらい医療が逼迫すると、データから判断していました。オリンピック委員会や政府に忖度(そんたく)して言わないという選択はなかった」
6月18日、「無観客開催が望ましい」と提言。ただ有観客であれば、会場で感染爆発すると考えていたわけではないという。
「競技場での感染そのものより、地域でのさらなる感染拡大、医療逼迫が起こるだろうと考えていた。そうしたなか、矛盾したメッセージを出すことは問題だと思いました。『接触を避けてください』と言いながら、スタジアムで盛り上がっていたら、政府やオリンピック委員会にも強い批判が来ますよね。今振り返っても、あの時『無観客が望ましい』と提言したことは、私は間違っていなかったと思います」
政府は6月21日に「会場の観客数の上限を収容定員の50%」「上限1万人」と発表したが、7月8日にこの決断を覆し、無観客開催を決めた。尾身が3年半の間で精神的、肉体的に一番ハードな日々を過ごしたのは、このオリンピック前後の時期だという。
今、ワクチンは打つべきか
国民の間でも、対策や行動に関する価値観の違いでさまざまな分断が生じた。その一つがワクチンだ。待望されたワクチン接種が国内でスタートしたのは2021年2月。5月に大規模接種が始まる。
「日本はワクチンを作れなかったから、導入が遅れたわけですよね。菅政権のもと、大規模接種が加速しましたが、あれがもう少し遅ければもっと死亡者が出た可能性があります。国産のワクチン開発が実現しなかったのは、日本企業の国際競争力が不足していること、政府の資金が十分に投入されていなかったことに尽きるでしょう」
2024年4月からワクチン接種は自費になった。今ワクチンを打つべきなのだろうか。
「若い人は副反応もあるということで、打たない人も多いと思います。これはご本人たちの判断です。高齢者や基礎疾患のある人たちは打ったほうがいいと思いますね。私も打ちます。感染防止効果はそれほどでもないけれど、重症化予防効果はかなりあるんですよね。ワクチンは有効ですが、万能ではなかった」
ワクチンの薬害に関する訴訟も起きているが、これについてはどう捉えているのか。
「ワクチンによる被害や死亡は、残念ながら日本では詳細なデータを取れるようなシステムになっていません。死亡した原因がワクチンなのか他のものなのか、ほとんどわからないという状況で、今は結論を出せないということになっている。精査するためのモニタリングシステムを日本は早く構築したほうがいいと思います」

























