マウスウォッシュ
- カテゴリ:日記
- 2026/06/08 22:06:57
夜更け。
洗面台の灯りだけが、
小さな港みたいに部屋を浮かべている。
透明な液体を口に含む。
規定の三十秒。
そのあいだだけ、
時計は律儀に進むのに、
心の中では何年かが勝手に逆走する。
誰のことだったか、
もう名前も曖昧なのに。
春の匂いとか、
改札の向こう側とか、
返事にならなかった言葉とか。
そういう輪郭だけが、
水面の月みたいに残っている。
ぶくぶくと揺れる記憶は、
吐き出せば終わるはずだった。
けれど排水口へ流れていくのはミントの香りだけで、
流れ損ねた季節は、
今夜もどこかに引っかかっている。
鏡の中の自分は、
何事もなかった顔をしている。
それが少し可笑しくて、
少しだけ切ない。
口の中だけが妙に清潔で、
胸の奥には、
名前のない余韻がまだ残っている。
























