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「せっけい倶楽部」

私は「せっけい倶楽部」を使って架空の家を設計するのが趣味だ。
「せっけい倶楽部」とは、住宅関係の会社が提供しているパソコン用の無料住宅間取り作成ソフトだ。専門知識がなくても、パズル感覚で直感的にマイホームの間取りや3Dシミュレーションを作成できる。
ずいぶん前にこのソフトの存在を知り、自分のPCにダウンロードをして、画面の中の図面にキッチンや水回りや和室、洋室、クローゼットなどの間取りを貼り付け、あれこれと並べ替えて理想の家を空想して遊んでいる。

現実の私は夫と二人で、60年前に義父が建てた一軒家に住んでいる。
いかにも昭和時代の田舎の日本家屋の造りだ。トイレと洗濯機の小屋が家の外にある。日当たりのいい南側に来客用の応接室や座敷が並び、家族の過ごす居間は北側に面していて狭くうす暗い。収納は少なく床の間と仏壇だけは立派。2階の寝室にまで床の間がある。夏は暑く冬は寒い。段差も多い。そのうえ、凄いガラクタ屋敷なのだ。

この家に嫁いできてからずっと、休日の度にちまちまと片付けをしてきた。義父と夫が暮らしていた家は、私が来るまでゴミを出す習慣がなかった。生ゴミは義父が畑に捨て、燃えるゴミの一部は義父が畑で燃やしていたからだ(違反である)。他のゴミは全て放置されていた。
夫はというと一切片付けをしていなかった。物を出したら出しっぱなし。戸を開けると開けっ放し。明かりも点けっぱなし。アイロンのスイッチすら着けっぱなしだった。何がしかの発達特性を抱えてるとしか考えられない。家の片付けどころか自分の物の片付けすら全くできない人間だったのだ。
なので家の中も周りも物置も、いらないモノで溢れていた。
ゴミ袋を買うチケットも見当たらず、最初の1年は実家に持ち帰って父に処理をお願いしていた。1年たってようやくチケットを手にした私は、精力的にガラクタを捨てていたのだが、いつしか片づけることをやめてしまった。

きっかけは義姉だった。
離婚して家を追い出された義姉が、義父の財産を生前分与させろと言って乗り込んできたのだ。
見栄っ張りな義姉は一人で暮らすのに、高い家賃を払って2階建ての一軒家を借りていた。きちんとした収入のある仕事を探さず、趣味の教室を開いて先生の真似事をしていたいのだという。
当然夫とは口論になった。
これから義父の介護にお金もかかるのに財産は渡せない、まともな仕事に就けと言う夫に、義姉はダメならこの家に出戻ってくると言い放ったのだ。
義姉としては脅しだったのだと思う。
しかし、その言葉を聞いた時、私の中に鮮やかなビジョンが浮かび上がった。
義姉が戻り、義父とこの家で暮らす。そして私たち夫婦は出ていき、こじんまりとした家で二人ですっきり暮らす…。
収入のない義姉でも、この家なら義父の年金で暮らせるだろうし、家にいて義父の世話ができる。広い家だから子供や孫が泊まりに来られるし人を呼ぶのも好都合だ。
一方私たちは共働きでそこそこ収入はある一方、不在がちで充分に義父の面倒を見られない。子供がいないので広い家は必要ない。
双方にとって素晴らしくいい提案だ。
しかし、ぜひ戻ってくればいいと言うと義姉はたじろいで、向こうに友達がいるから帰ってこられない、などといろいろ言い訳を始めた。

結果的に、私たちが仕事で留守をしている時に義姉は義父の通帳をすべて奪っていった。また認知症が始まっていた義父に手続きをさせ、義父の生命保険の受取人を夫から自分に変更させていた。
そして私は今もこの家に住み続けている。

しかし、私はもうはっきりと自分の気持ちを自覚してしまった。
私はこの家が嫌いだ。古くてゴタゴタとモノに溢れているが、全部いらない。
夫と義父の尻ぬぐいで片付けをするのも、もううんざりだ。


義父の認知症が進み、家中に粗相をするようになったり、徘徊したり、昼夜の区別がつかなくなって夜中に寝室まで起こしにくるようになった時、家にいるのが耐え難かった。そんな時私は心の中で空想の家を建てて、その中に逃げ込んでいた。
その後義父が施設に入って家に平穏が訪れたが、私はもう現実の家を整える気力をなくしてしまったのだ。

築60年になる家はいずれリフォームしないと、そのためには今のうちから片付けておかないと、と夫と話し合ったことがある。
しかし恐らく無理だろう。
夫は定年を迎えたら片付けたいと言っていたが、実際定年を迎えて出勤日が減った今も、片付けている様子はない。


「せっけい倶楽部」の中では次々と空想の家が生まれている。
平屋だったり、2階建てにしたり。
南向きの玄関にしてみたり北向きに移動させたり。
ごちゃごちゃとモノが散らからないよう収納はあちこちにたっぷり取ったり。
きっと実際に住むことは一生叶わないだろう、この世のどこにもない私の理想の家。
痛いのはわかっているが、それでも楽しいのである。

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