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湿気対策について⑰

▼一番身近な環境を整えること衣服気候の風合い

*皮膚には水を感じるセンサーがない

湿度と服の関係をお話をする前に申し上げますが、人間の皮膚に「水を感知するセンサー」がないことをご存じですか。

私たちの皮膚には温覚、冷覚、触覚、圧覚、痛覚など特定の刺激を感受する点があります。

例えば皮膚上に直径1mm程度の冷たい刺激を加えると、冷たいと感じる点と、何も感じない点が存在します。この冷たいと感じる点を冷点といいます。冷点の密度は皮下に分布する知覚神経、特に冷刺激にのみ反応して、活発に放電する自由神経終末(冷受容器)の分布密度と関係し、一般に顔面や体幹部では密度が高く、冷たい刺激に高い感受性を示すことがわかっています。圧覚については、皮膚に圧力がかかると受容器が放電して脳に受圧情報を伝えるのです。

こういった仕組みによって皮膚に加えられた温度や圧力は感じますが、水を感じる受容器は見つかっていません。こう言うと皆さんとても驚かれて、「私は汗をかいたときに肌が濡れていることを感じます」と言われますが、それは汗が肌の上で圧覚を刺激したり、汗が流れ落ちるときに触覚を刺激することで、経験的に「汗をかいた」というサインが脳に送られているのです。

試しに、サウナに入って実験してみてください。目をつぶっていて、いつ汗が出はじめたのか、わかりますか? つつつーっと汗が流れた瞬間に「あっ、汗が出ている」とわかりますが、汗をかいたのがいつなのかはわからないはずです。

人間の皮膚に水を感じるセンサーがないということは不思議なことですが、センサーがなくてもそのほかの複合的なサインによって水が感じられるということも、とても不思議なことだと思います。

上のグラフでは、皮膚の1平方センチメートルの面積内に、温点、冷点がいくつあるかを示している(温点、冷点とも、薄い色で示したのは身体の前面、濃い色で示したのは身体の背面)。比べてみると、温点より圧倒的に冷点が多いことに驚かされる。どの部位にいくつあるかということも表されていて、冷点が腰に多く分布することからも、「腰が体の要」といわれ、守らなくてはならない大事な部位であることが理解できる。
『衣環境の科学』(田村照子編著 建帛社、2004)の図版を参考に作図

*着心地の研究

私の専門の一つは被服衛生学です。放送大学でも「着心地の追究」を8年間テーマにしてきました。

衣服を単にモノとしてとらえれば、戦前の陸軍で使われた装備の総称としての「被服」、演劇などの仮装としての「衣裳」といった呼び名になりますし、「服装」は着たものを外から見たときの呼び名です。「服装」というと着ている人の人格的な要素を感じますね。また「衣服」は衣食住の衣で、服を総合的に表すのに一番適した言葉ではないかと思います。

人が服を着た状態は、中に空気を含んでいて、いわば服は人を包む環境ともいえます。こうしたことから、私は衣服気候とか衣環境と表現しています。20世紀後半から、人工環境は人間の生活を大きく変えました。それに比べて、人間そのものの形態、生理、心理特性は急激には変化しません。そのギャップの中で、衣服の果たす役割は一層大きくなるでしょう。そして従来にも増して、環境と人間特性との関係に軸足を置いた衣服研究、衣生活の追求が求められています。

衣環境として衣服をとらえると、着心地の中にはさまざまな要素があります。例えば「熱がこもる」「汗をかく」というのは、熱学的な要素です。また人が動くと「圧力がかかる」「服と肌が触れ合う」「摩擦が起きる」といった力学的な捉え方もできます。汗をかいたところに微生物が発生して、臭いが出たり、細菌による湿しんができたりする「汚れ」という観点での捉え方もあります。大まかに言って、汗が出るのは生理だけれど、出た汗がどうなるかは物理の問題です。衣服研究の分野でも前世代までは、この生理と物理が混沌としていました。まず、これを整理して捉えることで、衣服研究の可能性が高まるのではないかと考えています。

人間の生理は個々で差がありますし、感じ方も違っています。ですから客観的な評価データを出すためには、サーマルマネキンを開発して役立てています。このサーマルマネキンは、皮膚の上に置かれた汗がどうなるかといったことなど、いわば身体の外で起きていることをシミュレーションする装置です。

*汗の大切な役割

湿潤感と湿度に関する実験があります。温度一定の室で湿度のみを上昇または下降させたときの、湿潤感と湿度の関係を探るというものです。人工気候室に入って実験をしますが、不快と感じるのは、体温が下がらず蒸れ感を感じたときということがわかります。室温25度の設定ですと、汗をかかず、室の温度が上昇してもあまり蒸れ感は感じません。身体の中でつくり出される「産熱」と身体の外へ向けて放散される「放熱」のバランスがうまく取れた状態だからです。

人間は汗をかかない程度の気温のとき、湿度と関係なく快適と感じます。

ところが30度を越えた時点から、湿度と不快の相関性が高まります。

暑さを感じたときには、汗をかいて、汗を気化させることで潜熱を奪って身体を冷やそうとしますが、このとき、室の温度が高くなって、かいた汗が気化しにくくなると、蒸れ感が高まって不快を強く感じるのです。

汗といっても、体を流れ落ちる汗(流失汗)や衣服に吸収されてそのまま留まる汗(残留汗)、拭き取ってしまった汗は、体熱を放散する役に立ちません。ですからこれらの汗は、区別して測定する必要があります。同じ気温、同じ湿度でも、着ている衣服の素材によって快、不快の感じ方が違うのは、汗が身体を冷やす働きをしなかった場合です。つまり汗を蒸発させやすい素材でつくられた衣服を着ているほうが、快適だということです。

皆さん、吸水性がいいのは、どんな素材だと思われますか? 木綿という人もいるし、ウールだという人もいますね。液体としての汗の分子は大きく、蒸発するときの汗とは性質が異なっているので、吸水性の良し悪しだけでは、衣服の素材として適しているかどうかを語ることはできません。ウールは自然界で暮らす動物の獣毛ですから揆水性があって、通常の状態では水を吸いません。吸湿性は15%で、天然繊維の中では一番吸湿性のいい素材ということになります。つまり汗をかいても蒸れにくく、雨や水には濡れにくい性質を持つので保温性が高く、寒冷地の衣服素材としては大変適しているということができます。

ちなみに木綿の吸湿性は8.5%、ナイロンは4.5%、ポリエステルは0.4%です。木綿は肌触りがよく、汗をよく吸収するので肌着などには最適ですが、吸水性がよく乾きにくいため、寒いときに濡れると体温が奪われてしまいます。それでも肌触り、耐久性、洗えること、生産性など総合的に考えて、私は木綿は現在でも大変優れた素材であると思っています。

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