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湿気対策について⑮

*伝統的な建築材料がマイナスになる?

シックハウス症候群のことは先ほども触れましたが、気密性の高い住宅では、過去の当たり前の建築材料も、気をつけて使わないと大きな問題につながることがあります。

蒸暑気候の私たちの国の建材には、よく防腐剤が塗られています。高気密住宅の場合、暑くなって防腐剤が蒸散し始めると抜けるところがないので危険です。この問題に対応するために、今度は空気の質を整えるため、通気性が求められるようになります。現在24時間換気を、法で義務づけるまでになっています。

畳も問題です。部屋を閉めきっている状態で温度が上昇すると、マンションのように吸湿性のない建物の中では畳が吸湿剤の役割をします。昔の家では、畳の下にはすのこを敷き、さらにその下は縁の下でした。厚さ60mmの畳の上下には通気性があったのです。

ところが今はコンクリートの床に畳が敷いてあるだけなので、当然のことながら空気は流れません。高湿度になると腐るし、ダニが発生しやすくハウスダストの原因になります。仕方がないので、湿るのは覚悟の上で畳の裏に防虫シートを貼りつけたり、吸水性が低く断熱性能が高いスチロール板を入れたりしてしのいでいるのが現状です。

*換気というライフスタイル

戦後の住宅建築においては、湿気は高気密・高断熱空間の中で最大の難問になってしまったわけですが、現在の住宅で、低エネルギーで効率的で快適に暮らすにはどうしたらよいかが次の問題です。

湿度に限っていえば、これは換気以外に方法はないと思います。今の家は採光と断熱には注意を払われていますが、換気のための十分な開口部も必要と思います。

部屋というのは、たとえてみれば、湿地がたくさんある平地みたいなもので、空気が流れている所もあれば澱んでしまう部分もある。しかし、対流が起きて相当量の換気ができるような開口部を初めから設計に取り入れることは、効果があります。例えば高窓は、空気の移動量が大きくなるので、大変効果的です。そういう空気の移動は、あちこちの空気を引っぱるので、澱んで残るところがなくなります。

私が設計するときは、まずアメダスのデータを見ます。アメダスには風向、風速のデータがあって、これを見ると夏の卓越風(ある地域で、最も高い頻度で吹く風向きの風)がどちらから吹くかすぐにわかります。そして現場に行って確認すれば、間違いなく夏にきちんと風が抜ける家が造れます。今は防犯の問題が大きいので、施主も気にすることが多いため、開口部に格子をはめるといった防犯上の工夫もします。留守のときにも、ある程度の空気の入れ換えを可能にするためです。

*「まち内気候」を整える緑の蒸発散

「屋内気候」だけではなく、それを取り巻く「まち内気候」も考えなくてはならない時期にきています。周囲がコンクリート舗装で、そばにクーラーの室外機が4台も5台も並んでいるような家では、窓を開けても入ってくるのは質の悪いものになってしまいます。コンクリートや排熱機など人工的な環境から少し距離をおくような外部環境が実現したら、大きく窓を開けるべきです。卓越風の方向に必ず大きな窓があり、部屋の間にはスリットがあって、通気が確保されているような家はいいですね。また、夜間の冷気を溜められるように、南の窓が開くというのもいい。たまにはカブトムシが飛び込んでくるかもしれない。高層か中層の集合住宅のほうが、防犯の心配がなくそれが容易にできますから、良質の集合住宅のあり方がもっと研究されるべきでしょう。

樹木の蒸発散によるほどよい湿度は、空気中の埃っぽさも制御してくれます。東京にも、40年ぐらい前まではそんな近郊があったわけですが。

亡くなった建築家の宮脇檀さんが、かつてある分譲地の基幹街路の中に盛んに緑を植えていました。「あなたの宅地は緑を植えるために3割減ります」と言えば資産価値が下がるので、施主が許容する程度のことしかしていませんが、それでも15年たつと緑が育ち、素晴らしい成果が目に見えるようになりました。宮脇さんが民間の分譲地を設計している当時、私たちは「何をやっているのだろう」と思って見ていました。本人は「今にわかる」と思っていたのでしょう。それが今、緑の外部空間として見えてきたのです。

何よりも良い外部空間というのは緑なんです。蒸発散と日射を遮ることで、地表の温度は目立って違ってきます。緑覆率が大事で、アスファルト等の被覆はなるべくゼロが一番いい。駐車場でも轍だけ、最小限しか被服しないのがいい。

雨水は自分の敷地の土に返すことも大事でしょう。現状では、地下浸透は減る一方です。雨が降っても都市下水に流し込み、飲料水やトイレに使う水は遠くの水源から持ってきて、それをまた下水に流している。このため、都市から排出される水量は相当な量になるのに、地面はどんどん乾いていきます。これでは、良質な「まち内気候」が生まれるはずがありません。

例えば、公団などによって計画的に作られたニュータウンのように緑地が広い所は、まち内気候のポテンシャルは大きいですよ。そのような住環境を、住民が自分たちで経営するという時代がやってくるかもしれません。

*どのように住むかが大切

先日、ドイツに行って、住宅を建てる場合の必要最小敷地面積が600平方メートルと定められていると聞いて驚きました。約180坪ですね。ただひとつの敷地の中に2軒長屋があってもいいし、数戸の集合住宅でも構わない。要は土地を600平方メートル以下に区切るな、ということです。日本では相続税を払うために、もともと150坪あった屋敷を6つも8つもに切り分けて、鉛筆のような三階建ての建売住宅を並べるようなやりかたが普通のことですが、それとは対照的です。

ドイツのやり方だと庭がまとまり緑地を広くとって、屋内気候を守ってくれる外側の気候をつくることができます。敷地内に降った雨水を、土に返すこともできます。大きな木が生えていても、落ち葉を掃いたり樋が詰まったりすることに煩わされなくてもいいだけの間合いがとれます。外部気候を高い質に保つことができれば、屋内に入ってくるのは新鮮で良い香りのする空気や、美しい自然の景色といった良質なものになります。

日本のように「暑いから窓を開けたら、隣の家が見えてしまうので、窓は開けない」というほど敷地が狭いのでは困るわけです。これでは「家の中の気候をどうする?」とか「ライフスタイルをどうするの?」と問われても、選択肢が少なくて答えようがありません。

実は、根本的に考えなくてはならないのは「自分がどう暮らすか」ではなく「どう共に住むか」なのです。どういう友達をつくり、どういう地域社会をつくって、どういうエゴは我慢して、どういう自己主張をするのかという合意の臨界点を探らなくてはなりません。そこまで目が及べば、ドイツのように多くの人が広い敷地を共有することができるようになるかもしれません。600平方メートルの樹木で覆われた土地に、並んだ家。家は平屋でも、集合住宅でもいいでしょう。

































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